今回のブログでは、これまで比較的低コストで比較的大きな回路系の発明を中心に100件以上してきた私が、発明に限らずどのように世界で初めてのことをしてきたかについて、その方法やこつについて紹介します。

 

 注)改名前の名前

図1 第1,2回優秀発明者ほう賞(セイコーインスツル(株))

 

 なお説明の中で、例にあげているのは、一般的によく知られている発明と次のブログ「未知を既知に 自由研究家 松島千治 ポートフォリオ(研究成果・実績集)」で紹介しているものからです。

 

 早速、私の発明の手順を、図2に示します。基本的なステップ1~5は誰でもほぼ同じかと思いますが、図中赤字で示した箇所は、特徴的だと思います。

 

図2 私の発明の手順

 

ステップ1)解決したいテーマ(課題)

 通常専門家は、業界の未解決の課題が何かをよく知っていて、その中からテーマを選んで解決するのが普通です。しかし、私の場合は、自分でマーケティングをしたり、あるいは学会や業界の常識を隅々まで調べたりすることは好きでも得意でもなかったので、テーマは立場上あるいは組織として決まり切っていたり、あるいは業界ニュースや同業他社の公開特許調査や発表などから改善の余地の大きそうなテーマを探すことが多かったように記憶しています。競合他社の改善は、後出しじゃんけんのようで、もっとも簡単に発明できるテーマ探しの方法でした。世の中を組織と考えて、自分の苦手な部分ではエネルギーの浪費をしないことは、戦略上大切なことです。また、目に見えるような簡単に解決できそうなテーマも、誰でもできるので、手を出さないようにしていました。

 また、例えば静電気劣化防止方法を駐車場に設けるなど、誰もやってないことをやってみると、棚から牡丹餅のように意図せずしてゴムなどの不導体にも効果があることが分かるなど、苦労せずに発明できることもありました。何でもいいから誰もやってないことをやってみるのは、発明の観点からは宝の山の可能性もあります。

 

ステップ2)アイデア出し

 

 アイデア出しは、ステップ1で得られた課題を解決するステップなので、発明の核心部分と言えるでしょう。

 どんな発明も発明が開示される前は、こんなことできるはずないことです。何故ならば発明は、発明前の技術水準で容易にできないことが条件になっているからです。したがって、発明するためには、本当にできないのかや慣例や常識は本当に正しいのかを疑って、一見無理そうなことに果敢にチャレンジするところから始まります。特に進歩性の大きな発明は、現状の技術や常識から大きく離れているものです。したがって、良い発明をするためには、現状の方法や常識を一旦忘れて、白紙の状態から理想的な方法を考えることが大切です。現状の課題を小手先で解決するような発明では、より良い発明を競合他社に考えさせるヒントを与えるでけになりやすいでしょう。私は、発明に限らず、生活においても日常的に常識や習慣などの先入観を忘れて、白紙の状態で自分自身で物事を考えるようにしています。世間の常識より自分の考えの方が正しいと信じられるくらい、本質的なところまで遡って物事を考えるようにしています。

 白紙の状態から理想形を考えるには、こんなものが欲しいと言われた時に、自分の専門分野の現在の技術水準でできることであれば、どんなものでも自在に設計できる程度のスキルをベースとして持っていなくてはなりません。例えば、小型ジャイロ部品が開発された時に、ジャイロ方式のペンの設計ができなくては特許はとれません。

 また、どこまで斬新なものを設計できるかは、使用する部品の特徴をとこまで広く捉えているかで大きく変わります。例えば、フリップフロップが単にデータをラッチしたり状態を保持しておくものだというベーシックな機能だけを覚えていては、位相比較回路への応用は思い付きません。クロックとデータの時間関係で結果が変わる素子でもあると言う本質的な認識がもともとあったから、私は、1980年代前半にフリップフロップを使って高精度位相比較回路を設計できたのです。部品の普通の使い方だけでなく、データとクロックがほぼ同時に来るようなイレギュラーな場合の挙動も含まれるような広くて本質的な機能を手持ちの各要素について頭の中で把握しておくことが重要なのです。知識は応用できて初めて役に立ちますが、本質的なところまでの深い知識があってこそ広い範囲への応用が可能になるのです。

 さらに、アイデアは、小さなアイデアを積み上げて考えるよりも、より広い視野で全体から考える方が効率が良いように感じています。動作しそうなものが設計できたからそれで完成と言うことではなく、全体としての機能上必要なものだけで構成されているか?あるいは、設計がうまくいかない時に、AとBからCは決定できるはずだ。みたいなことを手掛かりにして考えると解決しやすいかもしれません。例がよくないかもしれませんが、狭い視野でカラスは野生の凶暴な鳥だから野生のカラスを手乗りにするなんてできっこないと常識的に考えるのではなくて、より広い視点からカラスもオウムや九官鳥と同じ鳥だと考えると野生のカラスも手乗りにできそうな気がすると思います。もう少しまともな例を挙げると、物理の問題で個々の位置や力を計算して解かなくても、全体のエネルギーに着目すると簡単に答えが出たりするようなことです。

 ここまでの内容は比較的一般的でつまらなかったかもしれませんが、アイデア出しの最後に最も重要だと感じていることを説明します。私の場合は、アイデアは、頭の中の自分でも見えない異次元空間からひねり出すものです。その時のキーワードは、「何となく似てることは?」とか「何か連想できることは?」とか「何とかできないか?」と頭の中で唱えながらアイデアを異次元空間からひねり出すようにしています。出てきた複数のアイデアは、ヒントにすぎませんが、そのヒントと同様に解決できないか具体的に考えを詰めていくようにしています。ヒントをたくさんひねり出していくと、その中に「おおーっ」っと思うようなものも出てくるかもしれません。共通するのは「何?」で、これが、私にとっては発明するための魔法の漢字一文字です。

 ステップ2の最後に、「何となく似ている」や「何か関連がある」事や物の連想から成果が出た例を挙げておきます。
 カラスからオウムや九官鳥 ⇒ 野生の手乗りカラス
 惑星公転からバイオリズム ⇒ 地上人類への惑星公転の影響
 画像処理から量子力学 ⇒ 画像処理にブラケットを導入
 占いからアート ⇒ 誕生アート
 位相比較からD型フリップフロップ ⇒ クロックレスビデオ信号の量子化(データ復元)

 タッチパネルから液晶パネル ⇒ マルチライン駆動のタッチパネル

 ジャイロからペンの動き ⇒ ジャイロ方式ペン
 マトリクス回路から加法定理 ⇒ STN液晶統合シミュレーター

 

ステップ3)青写真の設計

 アイデアが出たら具体的に設計(と言っても構想レベル)するのですが、私の場合は、試作が必要ない程度に確かに動く設計をするのが特徴です。

 このことのメリットは非常に大きいです。試作レスにすると、開発の費用と期間を大幅に縮小することができます。逆に、試作をすると、通常百万円~数千万円の費用と数カ月の期間がかかります。このため、市場性ばかりでなく生産工場との適合性など多くの事業としての確度の高さがないと会社から承認がおりません。また、評価まで含めると特許出願が大幅に遅れて競合他社に負ける可能性が高くなるからです。

 では、試作不要の設計はどうすればできるのかですが、確かな知識と確かな論理構成につきます。その上で、何回か間違い探しの心づもりであらゆる観点から多角的に検図をして、どう考えても動くはずと言えるところまで修正して完成させます。「私が、机上で動くと言って、実際に動かないものはない。」って言ってたように、実際に試作してみた場合には100%動きました。

 より具体的には、物理(力学,電気など)や数学のハイレベルな難しい試験問題の答えを100%に近い自信をもって満点をとれることと、試作したものがデバッグせずに1回で動くことは、似たようなスキルによることです。設計段階も試験問題も頭の中で正しい構成を構築するという観点では殆ど同じ作業だからです。唯一の違いは、設計の方が試験よりかは時間的には切迫していないことくらいでしょう。つまり、設計のスキルを上げるためには、基礎となる学問の問題を確実に解けるように勉強しておくことが一番の早道なのでしょう。

 

ステップ4)確認(試作やシミュレーション)

 

 特許は、実際に動かして確認したことを出願することにはなっていますが、特許審査の中でそのことを確認されるわけではありません。したがって、審査官が読んで、これは確かに動きそうだと納得できる程度に具体的に矛盾のないことを記述できれば特許は取得できることになります。

 私の場合は、試作はしないことが多く、机上検討で十分だと思えばそのまま特許出願することも多くありました。机上検討で革新が持てない場合には、シミュレーションは行います。また、最初からシミュレーションをする中で発明をすることも多々ありました。それでも、普通のエンジニアと違って、市販のシミュレーターを使ったことは一度もありません。市販のシミュレーターは、だいたい回路や流体や熱や電磁気などに特化しているものが多く、一部の統合シミュレーターはあってもばか高かったことと、人の作ったソフトの使い方を覚えるよりも、自分で作った方が手っ取り早いと感じていたからです。私が作っていたシミュレーターは、電気回路,STN液晶ディスプレイ,バックライトの光線追跡,静電タッチパネル,GPSベースバンド,カラーマッチング,画像処理,ワイヤレス給電など多岐にわたります。シミュレーションは、単に設計の確認と言うより、シミュレーションしながら設計を進めるケースも多かったように記憶しています。

 だから、私にとって研究・開発は、その気になるかどうかは別として、特許調査やシミュレーションができるパソコンが1台あればどこでも可能は可能です。

 実際に試作したのは、製品化のプロセスとして試作を動かさないと組織として納得しない場合や、実用のために現物を作る場合だけです。

 

ステップ5)特許出願・発表

 発明したものが実際に動作して効果があることを確認できたからと言って、そのまま特許出願するのはあまりにももったいないです。実際に動作した手順や構成は、理想形を考えていればベストなものかもしれませんが、従来技術からの進歩分すべてを権利主張するために、ひと手間かける必要があります。

 類似する他の発明や抜け道がないかを考えてなるべく多くの記述をして請求範囲を広くしておくことは良く知られています。私は、さらに階層的に分類して各々の特長を整理してから特許を書くのが望ましいと考えています。このことについて、昔の簡単な特許としてよく知られている鉛筆を正六角形にして転がりにくくしてたぶん億単位のお金を稼いだ特許を例に説明します。

 もし、断面が正六角形のみを発明の範囲としたら、競合他社が正七角形の鉛筆を転がりにくいラッキーセブン開運鉛筆として製品化されてもローヤリティを請求できません。特許出願前に、従来の円柱形の鉛筆を正多角形にまで拡張しておけば、正七角形の鉛筆も発明範囲に含まれるようになります。それでも、円柱形から1カ所だけ面取りして転がってもすぐ止まる鉛筆や転がりにくい楕円柱形の鉛筆を他社が製品化した場合は、ローヤリティの請求はできません。冷静に考えると、従来の断面が円形以外の鉛筆はすべて転がりにくいので、断面を円形でなくすことにより転がりにくくしたことが、従来の円柱形からの進歩の範囲を最大限に拡張したものになります。それでも、「断面が円形以外」と言う表現は「特許請求の範囲」では使えません。「~以外」は、不明確で発明が完成されていないと見なされるからです。

 それでは、どうするのが理想的かと言うと、図3に示すように、階層的分類して各々の特長を整理して明細書にすべてを記述しておくことが重要なのです。

 

 

図3 発明範囲の階層構造 ()内は効果

 

 最初の発明は、断面が正六角形ですが、特許出願時は「断面がいびつ」で請求して、明細書では、「正多角形や面取りや楕円やだるまさん形など円形よりいびつな形にすることで転がりにくく・・・」と「正六角形や正方形や正三角形や正七角形などの正多角形は見た目が自然で・・」などと階層的にすべて説明しておきます。もし、このまま登録になれば、円柱以外のいびつな棒状の鉛筆はすべて権利範囲にすることができるので抜け道がありません。また、もし審査の過程で、断面がだるまさん形の鉛筆の先行技術例がみつかった場合には、「断面がいびつ」の広い範囲は断念せざるをえませんが、残りの正多角形と面取りと楕円については、各々別の効果があるので請求範囲を減縮して特許を取得することができるでしょう。審査の過程だけの話でなくて、特許登録後に先行例がみつかった場合でも、一部が削られるだけで残りが生き残ることができます。

 このように、自分の発明の進歩性の本質を考えて可能な限り広い発明にすることと、その中を階層的に分類して各々の特長を整理することは、とても大切です。さらに、その発明によって可能になるできるだけ多くの応用分野も考えておくことが大切です。この作業が終わったら、特許出願や発表をなるべく速やかに行うだけです。

 

 今回のブログを、最後まで読んで下さりありがとうございます。当ブログ「未知を既知に 自由研究家 松島千治」では、この他にも様々な研究成果などを紹介しておりますので、ご覧いただけると嬉しいです。

 

 最後に、お気軽にご感想やご意見を残して頂けると嬉しいです。
 
以上 2022.12.30