**【佐伯ひかりシリーズ 第8話】 『第8話 読むという痛み──二人の距離』** | 100年のブログ

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三浦あかりは、教室の窓から外を見ていた。
昨日、“読んだ”男の目。
その意味が胸に残っていた。
──私は、読んだ。
──でも、それは“見抜いた”ってことだったのかもしれない。

昼休み。
あかりは、隣の席の男子が冗談を言って笑っているのを見ていた。
その笑顔の奥に、
ほんの一瞬だけ“違和感”が走った。
──笑ってない。
その瞬間、あかりの胸がざわついた。
(……この人、無理してる)
理由は分からない。
でも、分かってしまった。
あかりは、思わずその男子に言った。
「……無理して笑わなくていいよ」
男子は、目を見開いた。
「え……?」
「なんか、そういう感じがしたから」
男子は、数秒沈黙したあと、
「……ごめん」
とだけ言って、席を立った。

放課後。
あかりは、ひかりに言った。
「佐伯さん……私、今日、“読んじゃった”」
ひかりは、静かにうなずいた。
「どんなふうに?」
「笑ってる人が、笑ってなかった。
それを、言っちゃった。
そしたら……その人、傷ついたみたいで」
ひかりは、窓の外を見ながら言った。
「読むってことは、
相手の“仮面”を剝がすことでもある。
それは、時に痛みを伴う」
あかりは、机の端を握った。
「……怖い。
私、誰かを傷つけるかもしれない」
ひかりは、あかりの手にそっと触れた。
「だからこそ、“読む力”には責任がある。
私は、それをずっと一人で背負ってきた」
あかりは、ひかりの目を見た。
その目の奥に、
“孤独”と“覚悟”が静かに揺れていた。
「佐伯さん……私、あなたのこと、
少しだけ分かった気がする」
ひかりは、少しだけ微笑んだ。
「ありがとう。
でもね、三浦さん──
あなたは、私とは違う“読み方”をする人だと思う」
「違う……?」
「うん。
あなたは、“揺れ”を通して読む。
だから、相手の痛みも、自分の痛みも、
ちゃんと感じられる」
あかりは、胸の奥が温かくなるのを感じた。
──読むって、怖い。
でも、読むって、誰かに寄り添うことでもある。
その瞬間、
二人の距離が、静かに縮まった。
そして、
“読む力”が、
ただの才能ではなく、
人と人を結ぶ力でもあることが、
あかりの中に芽生え始めていた。

**【佐伯ひかりシリーズ 第9話】
『第9話 拒絶の静寂──読むことの重さ』**
佐伯ひかりは、ノートを閉じた。
その表紙に手を置いたまま、しばらく動かなかった。
──読むことが、怖くなっていた。

昼休み。
ひかりは、窓際の席で静かに座っていた。
あかりが近づいてくるのが分かったが、顔を上げなかった。
「佐伯さん……今日、なんか違うね」
ひかりは、少しだけ顔を上げた。
「……何が?」
「目が、読んでない。
いつもみたいに、空気を見てない」
ひかりは、少しだけ笑った。
「読まないようにしてるの。
読んだら、壊れるから」
あかりは、言葉を失った。
「壊れる……?」
ひかりは、窓の外を見ながら言った。
「昨日、三浦さんが“読んだ”って言ってくれたとき、
私は嬉しかった。
でも同時に、怖かった。
あなたも、私みたいになるかもしれないって」
あかりは、ひかりの机の端に手を置いた。
「私、佐伯さんみたいになりたいって思ったよ。
でも、今の佐伯さんは……苦しそう」
ひかりは、静かに言った。
「読むってことは、
相手の“仮面”を剝がすこと。
でもね──
その仮面の下にあるものを、
受け止められるとは限らない」
あかりは、ひかりの手に触れた。
「佐伯さん……読むの、やめてもいいよ。
でも、私には読ませて。
あなたの“仮面の下”を」
ひかりは、目を見開いた。
──読まれた。
その瞬間、
胸の奥がざわついた。
でも、それは痛みではなかった。
それは、
誰かに“読まれてもいい”と思えた瞬間だった。
ひかりは、あかりの手を握った。
「……ありがとう。
私、少しだけ、読んでもいい気がしてきた」
あかりは微笑んだ。
「読むって、怖いけど──
誰かと一緒なら、少しだけ優しくなる気がする」
ひかりは、あかりの目を見た。
その目の奥にある“揺れ”が、
自分の“拒絶”を静かに溶かしていくのを感じた。
そして、
読むことの重さを分かち合える相手がいることが、
ひかりにとって初めての“救い”だった。

 

**【佐伯ひかりシリーズ 第10話】
『第10話 読むという選択──光の輪郭』**
佐伯ひかりは、校舎の屋上にいた。
冬の風が制服の裾を揺らす。
空は薄曇りで、遠くの山がぼんやりと見えていた。
──読むことをやめたら、楽になる。
そう思ったのは、ほんの数日前だった。
でも今は、違う。

階段の音がして、
三浦あかりが屋上に現れた。
「佐伯さん……ここにいると思った」
ひかりは、振り返らずに言った。
「……読まないって、決めたはずだったんだけどね」
あかりは、ひかりの隣に立った。
「でも、読んでるでしょ。
私の“揺れ”を」
ひかりは、少しだけ笑った。
「うん。
読んじゃうんだよ。
止めようとしても、勝手に“意味”が落ちてくる」
あかりは、空を見上げた。
「私、今日……友達が泣いてるのを見た。
誰も気づいてなかった。
でも、私は“読めた”」
ひかりは、あかりの横顔を見た。
「それで、どうしたの?」
「何も言わなかった。
でも、隣に座って、ただ一緒にいた」
ひかりは、静かに息を吸った。
「それが、“読む”ってことだよ。
言葉じゃなくて、
“意味”に寄り添うこと」
あかりは、ひかりの手を握った。
「佐伯さん。
私、あなたが読んでくれるから、
自分の“揺れ”を見つけられた」
ひかりは、あかりの目を見た。
その目の奥にある“信頼”が、
胸の奥に静かに落ちてきた。
──読むって、怖い。
でも、読むって、誰かの“孤独”を見つけることでもある。
ひかりは、空を見上げた。
「……私、もう一度読むよ。
誰かのために。
そして、自分のために」
あかりは、微笑んだ。
「それが、佐伯ひかりだと思う」
風が、二人の間を通り抜けた。
その風の中に、
“読む力”の輪郭が、
静かに、でも確かに、立ち上がっていた。