【佐伯ひかりシリーズ・補完章】 『沈黙の輪郭』 | 100年のブログ

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永田町・総理官邸。 午後の会議室には、外務省・文部科学省・内閣官房の幹部が集まっていた。

 議題は、英国側からの“探り”について。 総理は、静かに報告書を読んでいた。 

「……高校生、ですか」 誰かが言った。 

「はい。札幌の公立高校に通う女子生徒。 

外交官との接触は非公式で、教育現場での偶発的なものです」 総理は、報告書の一文に目を留めた。
総理は、眉をわずかに動かした。

 「……彼女は、何者なんだ?」 外務省の幹部が答える。 「現時点では、ただの高校生です。 しかし、英国側は“国家戦略が読まれた”と認識しているようです」 

文部科学省の官僚が口を挟む。 

「教育現場で、こうした“読解力”が育っている可能性はあります。 ただし、それが外交に影響を与えるレベルかどうかは……」 総理は、静かに言った。 

「問題は、彼女が“動くかどうか”だ。 動けば、我々は対応せざるを得ない。 動かなければ、沈黙のまま見守るしかない」 官僚たちはうなずいた。

 総理は、報告書を閉じた。 「この件は、記録に残すな。 ただし、彼女の動向は静かに追え。 “読む力”は、時に国家の仮面を剝がす。 それが、たとえ高校生であってもだ」

 

【佐伯ひかりシリーズ新章】 『第5話 揺れる影──

 

三浦あかり』 三浦あかりは、ひかりのノートに書かれた 「読む人間」 という文字を見たあと、なぜか胸の奥にざわつきを覚えていた。

 ──佐伯さんは、何を見ているんだろう。 その疑問は、翌日、思わぬ形で答えを持って現れた。


昼休み。 校舎の外で、スーツ姿の男たちが職員室へ向かうのを、あかりは偶然見かけた。

 黒いコート。 無駄のない歩き方。 視線の動かし方が、普通の大人と違う。 (……この人たち、昨日の“あの外国の人”と同じ匂いがする) 

あかりは、理由もなくそう感じた。 

職員室の扉が閉まる直前、 男のひとりが廊下に視線を走らせた。 その目が、あかりの目と一瞬だけ合った。

──読まれた。 そう思った瞬間、背筋が冷たくなった。
放課後。 あかりはひかりの机に向かった。 

「佐伯さん……今日、変な人たちが来てたよね」

 ひかりは顔を上げる。 「見たの?」 「うん。なんか……“探してる”みたいな目だった」

 ひかりは、静かに息を吸った。 「たぶん、私じゃないよ。 私の“周り”を見てる」 「周り……?」

 ひかりは、あかりの目をまっすぐ見た。

 「三浦さん。 あなた、今日……“読まれた”でしょ?」

 あかりは息をのんだ。

 「……分かるの?」 「分かるよ。 だって、あなたの目が“揺れてる”。 

読まれた人の目は、そうなるの」

 あかりは、机の端を握った。 「佐伯さん……私、巻き込まれてるの?」

 ひかりは、少しだけ微笑んだ。 

「うん。でもね、 あなたは“読む側”にもなれる」

 あかりは目を見開いた。 「読む……側?」 

「そう。 あなたは今日、あの人たちの“目”を感じた。

 それは、もう“読む力”の入口に立ってるってこと」

 あかりは、胸の奥が熱くなるのを感じた。 

「私にも……そんな力があるの?」

 ひかりはうなずいた。 

「あるよ。 ただ、まだ“揺れてる”だけ。

 でも、揺れは始まりのサインだから」 

あかりは、ひかりの言葉を飲み込んだ。 

──私は、巻き込まれたんじゃない。

 ──私は、気づいてしまったんだ。

 その瞬間、 三浦あかりの中で“読む力”の種が静かに芽を出した。

 そして、 英国の視線が“ひかりの周囲”に向けられたことで、 物語は新たな段階へと進み始めていた。