鼻の大きな犬が
雨の匂いをまとって走ってきて、
私の腕へ静かに身を預けた。
夢のはずなのに、
濡れた毛の冷たさだけが確かだった。
長椅子に腰を下ろすと、
小さな影たちが
無邪気にその犬へ寄り添っていく。
犬は古びた二本のペン型ラジオを
子犬たちに渡した。
金属の細い光が
雨粒のように揺れていた。
私は少し離れた場所で
その光景を見つめていた。
ラジオからは何の音も流れないのに、
胸の奥では
遠い記憶のような響きが
かすかに続いていた。
やがて犬の輪郭は
霧の向こうへ溶けていき、
残ったのは
変わらない現実を受け入れたあとの
静かな空白だけ。
――長い付き合いだったな。
その言葉が
夢の声だったのか、
私自身の声だったのか、
目覚める頃には
もう分からなかった。