なんて目まぐるしかったんだろう。
もう春がきそうな気配。
年明けから、
賃貸の家探し、契約、
引っ越しの手配、
断捨離ラストスパート。
そして、娘の受験。
受験当日。
行こうと決めていた場所へ。
鎌倉の荏柄天神社へ。
階段を昇っている途中から、
涙が出て出て仕方がありませんでした。
きっと同じ思いであろうお父さんお母さんらしき人が何人も。
手を合わせる時間がひとりひとりとても長い。
風が冷たいなか、皆じっと順番を待っていました。
皆、思いは同じ。
勉強しなさい。
そう言ったことは一度もない。
けれど、一年ほど前から、
どうして勉強するのか。
それが将来の可能性をどれくらい広げるのか。
この数年にどれだけ努力するかで、
その後の長い人生がどれだけ変わってくるか、
そして、その努力した経験が、
その後の自分の大きな支えになることを、
折りに触れ、繰り返し繰り返し娘に話しました。
それでなにも娘の胸に響かなかったら、
もうそれは仕方がないことだと。
言葉を尽くしてあとは、
ただただ、娘がどうするのかなにを選ぶのか、
待つことにしました。
やらされるのではなく、
自分で考え、選び、進んでほしい。
考えて行動する人間になってほしい。
ひとりで生きていかなければいけなくなったとしても、
前へ進めるように。
人生を生きていくための、
勉強は手段に過ぎない。
けれどそれがいまどんなに大きな意味を持つのかを考えてほしかったから。
夏頃、娘にスイッチが入った。
「わたしここへ行きたい」
その学校の概要を知ったとき、
この子はなにを言っているのか?
正気なのか?
無理に決まっている。
頭を抱えてしまうばかりでした。
しばらくは夢を見るのも仕方ない。
娘も徐々に現実を受け入れ、
考えが変わるだろう、
諦めるだろう。
のんびりした娘は、
余裕を持って高校に入り、
そこそこの成績をキープして、
指定校推薦をもらい、のほほんと進学するのが向いている。
もう少ししたら、そっと軌道修正を手伝うのがわたしの役目なのだろうと、
そう思っていました。
夏が終わり、秋になり。
時間とともに娘の意思は固くなっていくばかり。
わたしは内心おろおろするばかり。
12月。
入試前、最後の高校説明会。
わたしも初めて娘の希望校へ足を運びました。
もう何度も来ている娘のあとに続きながら、
何故娘がここに来たいのかわかっていくような気がしました。
明るい日差し、のびのびした校風。
正門の前に立ち、思いました。
もう一度ここへ来たい。
ここに立つ笑顔の娘を見たい。
娘にも伝えました。
もう一度ここへわたしを連れてきてほしい、と。
年末から年明け、そして1月。
この子のどこにそんな力があったのだろう。
娘の頑張りは想像以上でした。
もうじゅうぶんだよ。
そう思うほど、頑張ったと思います。
そして、志望校の出願倍率が発表された日。
職場でそれを見たわたしは気持ちを抑えきれず泣いてしまいました。
とんでもない数字。
なにが起こったのかわからないくらいの衝撃でした。
聞いたこともない倍率。
わたしの思いとは裏腹に娘は動じませんでした。
そんな娘を見て、わたしも覚悟するしかありませんでした。
たとえ何十倍だったとしても、
合格枠は変わらない。
ただ、そこに入るだけだ。
志願変更はしない。
担任の先生、塾の先生。
娘の思いを尊重する旨を伝え、
どうか最後までご指導お願い致しますとお願いしました。
それでも、何度も何度も、
異常な数字に囚われ、心が折れそうになりました。
もし娘の願いが叶わなかったとき、
どうしたらいいのだろうと。
ぐるぐるぐるぐる考え続けました。
寝不足で疲れもピークだったなか、
でも、どこかでとても気持ちが穏やかでもありました。
こんなに頑張る娘を見られたこと。
とてもとても、幸せだと。
脳内、なんか滲み出ちゃってるんじゃない?というような、
高揚に似た思いのような。
だからもう結果はいい。
こんなに頑張ったこと、
それでもういい。
何より挑戦を選んだ娘を誇りに思う。
ものごころついたときから度を越した臆病で。
いつもいつもなにかの後ろに隠れていたような。
自己主張もほとんどなかった。
そんなだった子が、
ここまで意思を変えず進んできたこと。
この半年、どれだけ成長したのだろう。
もう、それでじゅうぶん。
志願変更後の確定した倍率も、
当初より少し下がったものの、
ふたりにひとり以上が合格できない。
依然として高い倍率のまま、入試になった。
試験が終わり、面接が終わり。
去年のデータがまったく当てはまらないので、
合否の見当もまったくつかない。
神のみぞ知る。
でもいま、娘もわたしも穏やかだ。
娘もわたしもまったく悔いがない。
よく頑張ったと、何度も伝えた。
娘からはサポートしてくれてありがとう。
塾に通わせてくれてありがとう、と。
合格発表の日が近づいてきた。
娘が晴れ晴れと笑顔で、
高校生になれますように。