いま見返しても見つからないのだけれど。
今日、休憩時間に、
何気なく見ていたネットのニュースで。
死期が近づいた人や、
近しい人を見送ったばかりの人のなかに、
「お迎え」を感じたことがあるという人が少なくない、
という記事があった。
病床で亡くなった人の姿を見たり、
旅立った人の気配を感じたり、というような。
わたしはかつて、
そういうことは一切信じなかった。
百歩譲って、
気持ちがそういう幻想を見たような気にさせるんだろうな、と。
一昨年の8月15日。
不思議な体験をした。
その年、悲しい別れがあり、
あまりに突然の出来事を受け入れることが出来ず、
ずっと頭のなかがぐるぐるしていて。
どうしてももう一度会いたくて。
会いにきて、
声だけでもいい、
気配でもいい、
たとえどんな姿でもわたしはわかる、
だから会いにきて!
当時、自転車通勤だった往復30分、
毎日それをひたすら考え続けた。
数カ月後の夏の日。
ああ、今日はお盆なのだな。
8月15日なんだな。
帰ってきていたのかな。
そう思った直後、
インターホンが鳴り荷物が届いた。
わたしが会いたかった人のご家族から。
すごくびっくりした。
いま考えていたところだったから。
添えられた挨拶文を読み、
やっぱりあなたはいってしまったんだよね。
涙が出た。
その日は遅番だった。
夕方近くに出勤し、閉店まで働いた。
時間がきてお店を閉め、
さあ、事務手続きを終えて帰りましょう、となったとき。
広い店舗のどこかから叫ぶ声がした。
来て!と。
それを見た時、言葉が出なかった。
駈けつけた全員、なに?これ...?と。
真夏の暑い夜、
商品の高いところにとまっていた、
大きな大きな、見たこともないような蝶々。
紫と黄色の極彩色、とでもいうような、
手のひらを広げたくらい大きなかなり厚みのある蝶々。
こんな生き物見たことない。
いったいどこから?
みんなで口を開けてポカンと見上げた。
こんな大きな蝶々を、
そのままにしておくわけにはいかない。
一晩締め切ったら、死んでしまうかもしれない。
それはちょっと後味が悪いから(大きすぎて)、
なんとかして外へだそう、ということになった。
川沿いののどかな場所にある店舗は、
普段からセミだのバッタだのが入り込んでくることがあったので、
お店には虫取り網が常備してあった。
網以外にもそれぞれ長いものを持ってみんなで作戦開始。
店内の電気をエントランスに絞ることで、
すんなり追い出せるかと思ったけれど、
予想外に蝶々はバタバタと店内を飛び回った。
わたしは虫が苦手。
飛ぶ虫はとくに苦手。
子供の頃、蝶々の粉、というのにかぶれ、
身体中たいへんなことになったので、
蝶々も苦手。
だから、棒だかなにかを握っていたものの、
いちばん離れたところで、
早く出ていかないかな~と見ていた。
なのに、逃げても逃げても、
蝶々がわたしに向かって飛んで来る。
大きすぎてかすかに羽ばたき音まで聞こえて、
本気で恐くて叫びながら逃げまわった。
周りは、
「なんでharucoさんとこばっかり行くのかね?!」と大笑い。
もうやだ、恐い恐い恐い!
ひたすら逃げた。
30分くらい後に、蝶々は無事外へ出た。
スタッフの一人が、
やだ、今日送り火だから早く帰ろうと思っていたのに。
そう言ったのを覚えている。
だから間違いなくその日は8月15日だった。
ねえ、もしかしてあの蝶々はあなただったの?
そう思いついたのは、2~3日も経ってから。
あの日、お盆の不思議な出来事。
そうだよね、きっとそうだったんだよね。
そう思ったら、涙が出て出て仕方がなかった。
ごめんね、最後の最後に会いにきてくれたのかな。
なのに逃げまわっちゃって。
小さくて可愛かったあなたなのに、
なんであんなにド派手な姿になっていたんだよ。
すぐにわからなかったじゃん!
本当のことはわからない。
それこそ、
願望を偶然の出来事に結びつけて、
自分を慰めているのかもしれない。
でも、あの極彩色を、
ずっと覚えておこうと思った。