午後から、むくむくと、
まるで入道雲のような空になり、
気温もどんどん上がってきた。
7月。
もう夏。
1年前の今頃、
最後の検査が終わり、
生検の診断が出るまで、
あと1週間、という時だった。
「CTを撮る必要がある、予約を入れました」と、
転院前の病院で言われ、
転院先に行ったわたしに、
「CTよりもね、生検しちゃいましょう」
待ってください、
CTと言われていたのに?
何故、生検を?
わたし、そんなに悪いのですか?
動揺して切れぎれに問うわたしに、
「早くわかったほうがいいでしょう?」と。
癌かどうか。
早くわかったほうがいいでしょうと。
もう、きっと限りなくクロだったのだろう。
心の準備がなにも出来ないまま、
寝かされ、服を脱ぎ、
楽にしてと言われても、身体が震えた。
動揺を隠そうとするあまり、口を引き結んだ。
これからすることを、説明している声が遠くで聞こえた。
いつの間にか、隣の診察室の医師もきていた。
待合室はあんなに混んでいたのに。
わたしが癌だから?
頭が混乱した。
麻酔で感覚がなくなった。
たくさんの手が、わたしの周りで動いていた。
無意識に首をねじった。
エコーの画面を見るために。
これから何をするのかを、見届けたかった。
大丈夫ですよと、
そっと首を戻された。
「お住まいは近く?」
落ち着かせようと思うのか、
作業しながら、若い女医さんが話しかけてくる。
なんとか微笑まそうとしているみたいに。
「お子さんは?いらっしゃるの?」
いまいちばん聞かれたくないことを、
どうして聞くんだろう。
糸がぷちんと切れて、後から後から涙が出た。
わたしの回りのたくさんの手のひとつが、
涙を拭いてくれ、
左手をずっと握っていてくれた。
今日の生検の結果をお話する、
「面談」の日を設定しましょうと、
別室に案内された。
面談、という名の、告知。
告知日。
「もし、癌じゃなかったら、その日はどうなるのですか」
そう聞いたわたしに、看護師さんは、
「良かったねってなるのよ!」
にっこり微笑んでそう言った。
『乳がんと診断されたら』という冊子を用意していながら、
そんなことを言わなければいけなかった看護師さんも、
辛かったと思いたい。
その後、数日の間に、
MRI、CTを撮り、
告知までの約1週間。
朝、目が覚めてから、夜寝るまで、
「わたしは癌なのだ」ということを考え続けた。
頭から片時も、離れなかった。
周囲は、昨日となにひとつ変わらないのに、
自分の見る景色の色だけがなくなっていったかのようだった。
よく、「心配で夜も眠れない」と言うけれど、
夜は逆によく眠れた。
自分でも不思議だったけれど、
きっと、起きている間じゅう、
「癌」ということを考え続け、
神経がすり減り、疲れきっていたのだと思う。
深く眠り、夢も見なかった。
けれど、眠りに落ちるまでの、
暗闇のなかで過ごすほんのわずかな時間が、
わたしを孤独にさせ、
一日のなかで、いちばん辛い時間だった。
いま、何を見ても、
あれから1年たったのだなあと、思う。
何故こんなに思うのかわからないけれど。
感慨深い、という言葉が、
いちばん近いのだと思う。
いま、生きていること、
命があること。
しばらく続くかも、一周年記念祭シリーズ(笑)
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