「ねぇ、とても綺麗よ」
河々尾が駐車場の掃除をしていると、おばさんはそう言い、賛同を求めてきた。
河々尾はおばさんの視線を追う。
そこには、一輪のタンポポがコンクリートの上に咲いていた。
「はぁ~、そうですね」
河々尾はやるせないが賛同する。
どうしておばさんっていう人種は、花なんかに一喜一憂するのだろう?
ただのタンポポじゃないか。
おばさんはにこやかに笑いながら、行ってしまった。
コンビニでバイトを始めて、4ヶ月が過ぎようとしていた。
接客が卒なくこなせるようになって、2ヶ月。
道徳の無いお客さんにも、平然と対応できるようになって1ヶ月。
河々尾はどこか退屈を持て余していた。
「強盗でも入らないかな?」
そんな冗談を言おうとしたが、言おうとした相手はお菓子の検品をしている。
バイト歴4ヶ月の河々尾に対して、バイト歴2ヶ月の副島君。
河々尾が、接客が卒なくこなせるようになってからコンビニにやってきた。
度の厚い眼鏡で、お菓子と格闘している。
時計を見ると、午後15時37分。
店内を見渡すと、お客さんが3人。
立ち読みをしている若者。
コピーを取っているサラリーマン。
牛乳を手にとって、動かない老人。
なんで動かないんだよ?
河々尾は心の中でつっこみを入れる。
すると、心の中を見透かれたように、老人がぎろりと河々尾を睨んできた。
河々尾は唖然とする。
睨んできたと思ったら、近寄ってきた。
そして、カゴを置く。
あっ、お会計って意味の睨みか、とほっとする河々尾。
マニュアル通りのレジ打ちで対応する。
「合計4点で、809円になります」と言い、袋に商品を入れていく。
食パンと冷凍食品と牛乳とキャットフード。
全部を袋に詰め終わる瞬間、老人は怒鳴りつけてきた。
「なんで猫の餌と一緒なんだよっ!!」
副島君が心配そうにこっちを見る。
他のお客さんも何事かとこちらを見る。
「申し訳ございません」
河々尾はそう言って、キャットフードを他の袋に入れ替えた。
そして、1000円を預かり、191円とレシートを返す。
「全くよぉ…」
そう言って、老人は出口へ怒りを露にして出て行った。
そんな大声出して怒る事じゃないだろうって愚痴る河々尾。
そういうこともありますよ、と副島君に慰められる。
≪出演≫
・河々尾 仁 (22)…コンビニ店員
・副島 浩輔 (19)…コンビニ店員
・菊下 昭 (72)…老人
・おばさん (55)…花好きのおばさん
・若者 (24)…コンビニでよく立ち読みしている客
・サラリーマン(35)…コンビニでコピーをしていた客