Classic Pop Album | ver.5 - 洋楽チャートをデータと共に

ver.5 - 洋楽チャートをデータと共に

過去と現在の洋楽シーンをチャートデータをもとに紹介するページ(週一更新予定)

Classic Pop Album紹介


Freak Out / Frank Zappa (66)


The Mothers of Invention
Freak Out!

 ”Freak Out”とは、Frank Zappa本人によると「制約だらけの思考、衣服、社会的なエチケットといった道徳規範をかなぐり捨てる過程」とのことです。つまりは”創造”とは常識に囚われていては始まらないということ。確かにこのアルバム、誰もが聞けば腰を抜かすような創造的な音がギッシリと詰め込まれています。奇才Frank Zappaのデビュー作にして傑作。今から40年以上も前に作られたのにもかかわらず、音は新鮮で全く色褪せていません。


 アルバムが発売された66年はBeatlesの『Revolver』、Bob Dylanの『Blond On Blond』、Beach Boysの『Pet Sounds』が発売された年です。若者の文化の象徴であったロックの中から、芸術性の高いアルバムが生まれ始めた年です。このFrank Zappaのデビューアルバムもそんなアルバムの一枚ですが、上の3枚と違っているのは芸術性が強すぎて、ある部分では全く別の音楽が出来上がってしまった点です。といっても今でもこれだけ評価されているのはポップミュージックの一つとして聞けるほどわかり易さも持ち合わせていることに他なりません。アルバムのベースになっているのは60年代当時のロック、R&Bという音楽です。


 1曲目の「Hungry Freaks Daddy」はTurtlesとかKinksあたりに近い60年代ロックで、メロディアスな間奏が良い感じです。歌われているのはアルバムタイトルの「Freakになれ!」です。続く2曲目の「そんな気はないぜ」ではバックの分厚いサウンドが光るポップミュージックですが・・美しいポップスの世界はこの曲の後半の絶叫から暗転。次の曲「フー・アー・ザ・ブレインポリス」は「頭脳警察」の言葉を生み出した曲ですが、ダークなイントロからオーバーダブを効かせたコーラスがとにかく不気味で、最後には絶叫とも悲鳴とも言わんばかりのサウンドが展開します。「あんたの知っていた人が・・溶けたプラスチックだとしたら・・溶けたクロームもそうだとしたら・・頭脳警察って誰だ」。誰もがまず最初に衝撃を受ける曲です。しかし次の曲からはまた再び美しいポップスの世界が展開します。「誰かの肩で泣きな」は50年代風ポップスで和み、「マザリーラブ」ではハーモニーの美しさを堪能できます。「なんて俺はバカだったんだ」ではTemptationsのようなMotownサウンドが流れ、「ワウイー・ゾウイー」ではハリーベラフォンテの「カリプソ」のようなコーラスサウンドが聞けます。「お前は電話をしてくれなかった」はBeach Boysの「Good Vibration」のような複雑な展開が見られるポップス組曲という感じです。その他「風がどっちに吹こうと」「アイム・ノット・サティスファイド」「首をふねっているんだろ、どうして俺がここにいるのか」「トラブル・エブリディ」とノリの良いロックナンバーが続きます。どの曲も完成度が高いです。で・・・次の曲です。再びアルバムは暗転します。「頭脳警察」に続いて伝説になっている曲、「ヘルプ、アイム・ア・ロック」です。


「助けてくれ、俺は岩になってしまった」
「助けてくれ。俺は岩になってしまった」


ダークなベースサウンドのループにのせて、「俺は岩になってしまった」というつぶやきが何度何度も重なります。やがて言葉にならないつぶやきが続いたかと思うと、2曲目や3曲目のような絶叫や悲鳴が流れながら全く予想もしない展開に進んでいきます。細かく説明できませんが、それは狂気そのもの。クレージーな音です。前にヘッドホンでこのアルバムを聞きながらうっかりと寝てしまった時・・多分この曲がかかっていたのでしょう。


悪夢を見ました。起きたら汗をびっしょりとかいていました。


8分以上にもわたるナンバーはFreak Outのタイトル通りにロックの枠を突き抜けたナンバーです。そしてラストの曲はインストゥルメンタルナンバーの「モンスター・マグネットのセガレの帰還」。バックに流れるドラムの音にうめき声や絶叫、歪んだサウンドが展開します。悪夢と言わんばかりのトリップ感覚満載のナンバーです。しかも歌詞の壊れっぷりがたまりません。「頭脳警察」と最後の2曲だけでもこのアルバムを買う価値、いや聞く価値があると言えるでしょう。


 60年代半ばに作られたのが不思議なほどアルバム全体で完成度が高く、かつ今聞いても類の無いほどの異色の作品です。このアルバムは初の2枚組みアルバム(CDでは1枚)としても有名です。ちなみに未だに私はこれを超える衝撃的な作品を聞いたことがありません。
 ★★★★★