This Music May Contain Hope. / Raye (2026)
ロンドン出身のシンガーソングライターRayeの2枚目のアルバム。Raye自身が「人生のつらい時期を乗り越えるための助けになるような音楽を作ろうとしたアルバム」と話しているように、アルバム全体は一つの映画、ミュージカルのようで、全体を秋、冬、春、夏と分け、つらい冬の時期を乗り越えて、やがて春がきて、夏に盛り上がって終わるという構成になっています。音は古き良きソウルサウンドやポップサウンドをベースにしながら、エレクトロやヒップホップな要素も加えながら、時にはジャズ、クラッシックまで加わり、バラエティ豊かなサウンドがアルバムを彩ります。オープニング、エンディングがあるのは勿論のこと、驚いたのはエンドクレジットがあって、最後にRayeがこの作品に関わった人たちを紹介して、最後の最後にRayeからの感謝のメッセージが流れた時は、本当に感動しました。
アルバムはどの曲も良くて、つながりや起伏もあって、しかも驚くような展開や構成もあります。Rayeの語りの1曲目「Intro Girl Under The Grey Cloud」からピアノの調べが美しく導く2曲目「I Will Overcome」でこの作品全体に通じる力強い意思が歌われますが、バックのオーケストラ、コーラスとアルバムを盛大に盛り上げていて、Rayeは時に壮大に、時に語りかけ、時には絶叫するようにこの曲だけでドラマチックな大曲になっています。秋パートに入ると、「Where Is My Husband」と同じノリのソウルサウンドの3曲目「Beware...The South London Lover Boy」が続きます。「Beware」というかけ声とホーン隊の掛け合いが楽しい曲で、愛が語られます。4曲目「The Whats APP Shakespeare」はシェークスピアつながりで90年代のBrandy、TLCっぽいサウンド、これはプロデューサーのシェークスピア風のサウンドではないかという発想が凄い。ピアノの調べにコーラス、メロディの美しさが溶け込み、そして秋パートのラストは50年代のポップサウンド、ジャズに移り、秋パートだけでもうお腹いっぱいなクオリティです。
冬パートは5曲目「Winter Woman」から始まり、これがドラマチックな歌で、徐々にリズムが上がっているスタートから「Life Goes On」というサビのフレーズが力強く、曲の中盤のバイオリン(ヴィバルディか)のソロサウンドから展開が変わって、後半はストリングも加わっての展開は言葉を失います。6曲目「Click Clack Symphony」はコンポーサーHans Zimmerを加えたシネマチックな曲で、タップを歌ったリズミカルなパートと美しいクラシカルなパートが交差しながら、最後には壮大な終わりを迎える大曲。ここでは友情について歌われます。余韻さめやらぬ内に7曲目「I Know You're Hurting」ではシンプルなピアノの調べから始まるRayeの歌声によるパワーバラードで、ここでは忍耐が歌われています。Rayeのパワフルな声がバックの壮大なサウンドと合わさって感動的です。しかもこの曲、後半転調を重ねて、"Purple Rain”なみにこれでもかというぐらいに盛り上げてきます。これ6分もある曲ですがシングルにしたらひょっとして大ヒットするのではとも思います。冬パート最後は8曲目の「Life Boat」ではエレクトロポップスという感じで、Rihannaのヒット曲のようなドライブ感があります。後半の展開は00年代のEDMのノリで冬パートは終わりを迎えます。
春パートの始まりは9曲目の「I Hate The Way I Look Today」で、一気にジャズ、50年代のポップスの世界に。ここでのRayeのボーカルは多種多様で、バックのサウンドと合わさって華やかです。10曲目「Goodbye Henry」では70年代のAORのサウンドで、後半ではRayeの紹介とともに70年代のソウルサウンドのスターAl Greenがあの歌声を聞かせます。曲の後半は転調をこれでもかと繰り返し、Rayeの語りで終わります。11曲目「Nightingale Lane」は名曲揃いのこのアルバムでも一ニを争う曲で、オペラチックでソウルフルなパワーバラード。Rayeのボーカルも感動的で、歌い方がずっと変わり続けて、何かに憑かれたのではと思うほど。ラストはこれはアルバムのエンディングと思いそうな盛り上がり方です。12曲目「Skin & Bones」は次の曲の「Where Is My Husband」と合わせてのノリノリのソウルサウンド。バックの軽やかなギターのアレンジが心地良い。
夏パートはドラムロールとともにシングルヒットした13曲目「Where Is My Husband」から。夫を探し求めるという曲ながら、どこかコミカルな歌詞で、でもこのアルバムの希望が歌われます。Destiny's Childのような早口のボーカルとコーラスと懐かしいソウルサウンドの組み合わせが楽しい。14曲目「Fields」はゴスペルチックなバラードが美しい曲ですが、デュエットしているのはRayeの祖父Michael。続けて15曲目の「Joy」はエンディングに向かっての展開にふさわしいラテンチックなダンサブルナンバーで、Rayeの2人の妹AbsolutelyとAmmaが参加しています。16曲目「Happier Times Ahead」は軽快なポップサウンドでアルバムを締めくくるエンディング。アルバムタイトルの希望についての教訓を歌い上げます。最後のRayeの「Happier」を連続して歌うところがまた感動的です。17曲目「Fin.」は2段階のエンディングで、ディズニー映画のようなサウンドにRayeのコメントとともにこの壮大な作品が幕を閉じます。続けて映画で言えばクレジットが流れるところで、最後にRayeの感謝のメッセージで終わります。
まず、1曲1曲がとにかく重たい。どの曲も凝っていて、しかもどれもシングルとしても面白いほど完成度が高い。最初はソウルやジャズといったクラッシックのイメージが残るが、音はもっと幅広く、最新のダンスサウンドやヒップホップではないが、それ以外のポップサウンドの歴史を凝縮したようなもので、それがそれぞれのテーマメッセージとともに最後に一つの作品として完成されています。あとはRayeのボーカルの多用さ。どの曲もいろいろなスタイルで歌い上げますが、11曲目の「Nightingale Lane」は言葉にならない美しさ。今年というより、ここ数年でもなかなか出ないような作品です。
★★★★★
I Will Overcome / Raye
Winter Woman / Raye
Nightingale Lane / Raye
Happier Time Ahead / Raye