
だから、父の姿は写真でしか知らない。
もちろん愛情も、声すらも知らない

母(度々登場するが念のため名はまちこ)曰く、父は旅行会社の添乗員をしており、多忙で、家にはほとんどいなかったという。
だから、私と映っている写真は一枚もない

1枚くらいあっても、えーんちゃうん?
全くないって、どぉよ?
どんなお父さんやった



私の質問に答える母 まちこ

『頭もよくて、スポーツ万能で、学生時代は皆の憧れやったよ!
器械体操しててな、カッコよかったんよ!
歌も上手やったし。』
そぅなんやぁ

私のお父さん、素敵な人やったんや

やはり私は嬉しかった。
『AB型で天才肌やったよ。』
へぇ!私のお父さん、AB型やったんや!
学校で理科の時間に血液型の勉強・・。
私O型
母O型
ABとO型の間にO型が生まれることはないと知った

学校から慌てて帰る!
『お母さん
お父さんAB型って言うてたよな?それなら私、お父さんのコじゃない!』

母まちこ。
『はぁ?ならA型やったんかな?
死んでもたから、わからんわ!
ハハハー
』

この後から不信感は募る・・・。
お父さん、どんな事故やったん



答える母 まちこ。
『仕事中に会社の軽四を運転してて、トラックと衝突
助手席に乗ってた人を守ろうと、自分の運転席側から突っ込んだみたいやわ。』
そうやったんや

悲しいけど、英雄やん。
私は記憶ない父に憧れを抱く

続ける母 まちこ。
『でもな、病院に運ばれて、亡くなる間際にな、私か、あんたの名前を呼ぶと思ったらな、かずちゃん言うんや。
私、かずちゃんって誰?
思ってな、悩んでるうちに亡くなったんや。ハハハー
』

え
それ、笑って言うセリフ


まだ続ける母 まちこ。
『でもな、後で考えたら、かずちゃんやなくて、かあちゃんやったんやと思って



ま、私らより、母ちゃんやったんやわ。
ちなみにな、事故でおりた保険、全部母ちゃんが持っていったわ!
ハハハー
』

すべて、笑われへんわ





娘の私には黙っておいて欲しかった。
せめて嘘でも
『あなたの名前を呼んで亡くなっていった。』
と言うた方がええような気がするのは気のせいか



さすが、まちこ。
天国のお父さん。
私はあなたが残していったこの母親と、たくましく、強く生きております。
お父さんが見守ってくれてると信じ、グレずに真っ直ぐ育ったつもりです



まだやりたいこと沢山あるから、見守ってね

まだ呼ばないでね

で、血液型、何型やった?


