トリル
11:45
いつもの30ペソの床屋へ行き、
いつも刈ってくれる、
短髪に一重で目つきの悪い40代男性は不在、
オーナー「オレがやっから座って」と。
そっと腰掛けても、
理容椅子は軋み、後ろへのけ反り、
その前には、

LEDがチカチカうっとうしいステレオ、
ラジオだけが、どうにか生きていて、
デジタル・チューニングで周波数は合っていても、
バツバツ、プツプツ音が気になるマシン。
バリカン片手に、オーナー「ラジオ聴くのかい?」
ボク「ミュージックは聴きますょ」
バリカンのスイッチは入ったまま、
そのモーターとギザギザの上下の刃はこすれ合い、
オーナー、手早くFM局を人差し指でチューニング、
ボク「サラマット /ありがとう」と、
オーナー、(頼みもしないのに)、
ボリュームまで人差し指で上げてくれ、
バツバツ、プツプツ音もボリュームアップ (涙
刈り終わり、
オーナーにこのステレオの写真撮っていいかを、
ビサヤ語で訊いて(いちおう社交辞令)から、
この iPad mini で撮ろうとすると、
理容椅子に座ったオーナー、
鏡を見ながら自分の髪に手ぐしを入れます。
これ、ボクがよく見逃してしまうサイン、
日本で営業マンだったにもかかわらず、
こういう相手のサインに、
ボクってドンくさいんです。
ボク「 (オーナーも)写真撮ろうか?」
オーナー、にわかに「ぇっ?、そう、じゃあ」と、
座ったまま鏡越しをリクエスト、

撮ったモノを見せると、
オーナー「なんか、カッコよくないなぁ、
前からにしよう、前からね」と、
ボク「はい、はい」と (笑、

オーナー、意識しつつも、さり気なさを装い、
iPad mini のカメラがそれを捉え、
オーナー、ボクの iPad mini を手に、
「これ、カッコいいだろー?」
疑問形で訊いてはいますが、
同意を期待する命令形でもあり、
ボク、もちろん同意し、数回大げさに頷きます (笑
じゃあ、
今度は、ボクが同意を求める番です (笑
