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欠落は、想像を作る。
私はいわゆるお上りさんであって、
生まれた頃から東京住まいの人々よりも
お上りさんの方がかえって東京に詳しくなる傾向に則って、
私もやはり東京にはそこそこ詳しくなった。
行ったことが無い場所は、
スカイツリーと、千葉の(夢の)国と、
美容室、もしくは床屋。
私は、東京に来てかれこれ7年、
自分で髪を切り続けている。
最初は失敗して、何度かスキンヘッドになった。
母親がうつぶせに寝かしつけてくれたおかげで
頭の形はなかなか良い。
元フランス代表のアンリと同じ頭をしている。
だから、スキンヘッドになることに、抵抗は無かったのだが、敗北感はそこそこにあって。
ちなみにスキンヘッドにしたての頭の触感は、
少々熟れ気味のみかんに似ている。
何度か脱色もしたりしてみた。
髪が金で眉毛が黒というアンバランスが大嫌いなので、
眉毛も当然脱色した。
髪の根本が黒くなるのが嫌で何度も脱色したけれど、
3回目には見事に髪が金色を通り越して真っ白になった。
そして短髪だったこともあるのか、
たわしのように固くなった。
あれ以来髪を染めるのが怖くて染めていない。
今では染めていなくとも微妙に茶色がかっているけれど。
誰かに自分の身を委ねることを、
電車移動以外はしなくなった。
髪を切ることも同じ、
もしくはそれ以上。だと思う。
自分の一部を、切り刻むのだ。
東京の美容室全般が割高であることもあるけれど、
自分の一部を切り刻む人、
かたどる人という考え方をすてしまうから、
うかつに踏み込めない。
他人に髪を切ってもらうという
誰しもが経験することから離れて、
その感覚というか、その行為が欠落してしまった。
そろそろ、忘れてしまっている。
そろそろ、想像出来る。