大阪教育新聞「子どもと絵本を結ぶ」VOL.168で『わたしは石のかけら』を紹介させていただきました。歴史の教科書だけでは知らない田中正造の姿を知ることができる絵本です。
12月2日に絵本朗読させていただくことになりましたので、お知らせさせていただきます。
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『わたしは石のかけら
もうひとつの田中正造物語』
文 越川栄子
絵 やまなかももこ/随想舎
小石の美しさに
人々の生き方を重ねて
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(以下、掲載文です。)
「わたしはかけら。石のかけら。」川に流され、川原にたどりつき、長い間川のそばにいた石のかけら。蹴られて、あっちこっちへ飛ばされ、丸くなり、あるとき田中正造翁に拾われました。袋の中にいた、石のかけらの仲間とともに、翁と一緒にあっちこっちを歩き回りました……。
本書は田中正造がぶらさげていた布袋の中で、生涯を共にした「石のかけら」の物語です。田中正造は明治時代の政治家で、生涯をかけて足尾銅山鉱毒事件を追及しました。足尾銅山鉱毒事件が日本初の公害事件だと小学校で学んだときに、公害の恐ろしさと正造の偉大さを強く感じたことを鮮明に覚えています。教科書に載っている白いあごひげの写真がとても印象深くて、自然や環境を大切にする人になりたいとも思いました。本書を読んで初めて、正造は小石を集めるのが趣味だったと知りました。遺品の中には、日記や河川調査の草稿、新約聖書、帝国憲法などと共に三つの小石があったそうです。子どもたちに小石を与えることもあったようで、栃木県佐野市の郷土博物館には、遺品の小石の他にも寄贈された二十四個の小石が所蔵されています。
文は栃木県出身の元小・中学校教諭の越川栄子さんです。石が語る生涯と、正造の活動記録を重ねて読み進めることができます。郷土史を教えるために正造を調べ始め、「田中正造という一人の政治家のたどった姿が、小石の中にあるように感じた」と、詩が自然に浮かんだ経緯を語っています。今にも動き出しそうな勢いある力強いタッチの絵は、正造についての著作を残した故・立松和平さんの長女、画家のやまなかももこ(山中桃子)さんにより描かれています。石から見た正造は優しさと温かさと愛に溢れています。
鉱毒被害を受けた人々の惨状を訴え続けた正造は、文明についての思想を深め、環境問題に取り組んだ先駆者です。今年は、正造の没後一一〇年、足尾銅山が閉山して五〇年。小石が人に蹴られ車に砕かれながらも、やがて丸くつやのある輝く石になっていく姿と、人々の生き方が重なってみえる一冊です。
たちばな ゆひ
