赤字が続いている会社の社長は、自信を失っていることが少なくありません。

同じ赤字でも、すでに改善策を打ち、回復の手応えを感じている社長は表情が違います。
「この方向でいけば何とかなる」という自信が見えるものです。

 

しかし、私たちコンサルタントに相談が来る会社の多くは、赤字から抜け出す手立てがまだ見えていない状態です。
社長も不安を抱え、自信を失い、どこから手をつければよいかわからなくなっていることが多いのです。

このような社長に対して、いきなり問題点を指摘したり、改善策を押しつけたりしてはいけません。

 

人は誰でも、外部の人間から「あれが悪い」「これを直せ」と言われるのは嫌なものです。
まして中小企業の社長は、これまで自分の判断で会社を動かしてきた人です。
自尊心を傷つけられると、こちらが正しいことを言っていても、心を閉ざしてしまうことがあります。

 

赤字会社の支援で大切なのは、社長の自尊心を守りながら、同時に危機感を持ってもらうことです。

「このままでは危ない」
「しかし、まだ打てる手はある」
「一緒にやれば乗り越えられる」

社長がそう思える状態をつくることが、コンサルタントの最初の仕事です。

 

もちろん、カリスマ型のコンサルタントの中には、厳しく叱責して社長を動かす人もいます。
しかし、それはかなり特殊なやり方です。
独立したばかりのコンサルタントが安易にまねをすると、信頼関係を壊して終わる可能性が高いでしょう。

まず行うべきは、社長の話をじっくり聴くことです。

 

ここで注意したいのは、最初から赤字の原因を追及しないことです。
「なぜ赤字になったのですか」
「どこに問題があると思いますか」
「なぜ手を打たなかったのですか」

こうした質問は、正論ではあります。


しかし、初期段階で投げかけると、社長には責められているように聞こえることがあります。

最初の対話の目的は、原因追及ではありません。
社長と協働で取り組める関係をつくることです。

私の場合、最初の面談では次のような流れを意識しています。

 

まず、アイスブレイクをして、リラックスして話せる雰囲気をつくります。


次に、社長の苦労話や会社への想いをじっくり聴きます。
そして、会社の沿革、創業時の想い、これまで大切にしてきたこと、子どものころの夢などを聞きながら、社長の価値観やこだわりを引き出していきます。


最後に、「本当はどんな会社にしたいのか」「どんな状態を取り戻したいのか」を一緒に確認します。

これは単なる雑談ではありません。

社長が本当に守りたいものは何か。
もう一度実現したいことは何か。
何のためなら苦しい改善にも取り組めるのか。

それを見つけるための大切な対話です。

 

中小企業診断士の研修では、診断士だけでチームを組み、社長抜きで分析や提案をまとめることがあります。
勉強としては有効ですが、実際のコンサルティングでは注意が必要です。

社長を置き去りにして作った提案は、立派な内容であっても実行されないことが多いからです。

社長もその場では「わかりました」と言います。
しかし、腹落ちしていなければ行動は変わりません。
結局、提案書は受け取ったものの、現場では何も変わらないという結果になりがちです。

 

だからこそ、社長を最初から最後まで巻き込むことが重要です。

現状を一緒に見ます。
課題を一緒に考えます。
打ち手を一緒に選びます。
そして、実行結果を一緒に振り返ります。

このプロセスを踏むことで、社長は「コンサルタントに言われたからやる」のではなく、「自分で決めたからやる」という状態になります。

 

中小企業の社長は、多くの場合、強い想いを持って会社を始めています。
あるいは、先代から受け継いだ会社を何とか守ろうとしてきました。

その想いを思い出してもらうだけで、その後の支援は進めやすくなります。

赤字改善は、厳しい取り組みです。
経費削減、価格改定、不採算取引の見直し、人員体制の変更、金融機関対応など、社長にとってつらい意思決定も出てきます。

そのときに、「本当はこういう会社にしたかった」という原点があると、社長は踏ん張りやすくなります。

 

ただし、社長を前向きにすることと、ただ持ち上げることは違います。

社長をおだてるだけでは、会社は良くなりません。
耳の痛い事実も、必要なタイミングで伝えなければなりません。

大切なのは、事実を社長と一緒に確認することです。

売上はどう推移しているのか。
粗利率は下がっていないか。
資金繰りは何カ月持つのか。
得意先別、商品別、事業別に見ると、どこで利益が出ていて、どこで赤字になっているのか。
社員や現場には、どのような問題が起きているのか。

定量情報と定性情報の両方を確認しながら、社長自身に現実を見てもらいます。

 

そして、実行したことに対してフィードバックを行い、必要に応じて軌道修正していきます。

ここでコンサルタントが注意すべきことは、自分が考えた結論に社長を誘導しすぎないことです。

もちろん、専門家として仮説や提案は必要です。


しかし、最終的に重要なのは、社長が腹落ちして、自ら動くことです。

コンサルタントの役割は、正解を押しつけることではありません。
社長が現実を受け止め、危機感を持ち、前向きに行動を変えていける場をつくることです。

赤字会社の支援では、分析力や提案力だけでは不十分です。

社長の自尊心を守る。
本音を引き出す。
会社の原点を思い出してもらう。
事実を一緒に確認する。
そして、行動変容につなげる。

これが、独立して中小企業コンサルタントを目指す人にぜひ身につけてほしい、赤字会社支援の基本姿勢です。