「合成の誤謬」
合成の誤謬(ごびゅう)とは、一人ひとりが正しいことをしても、それを全員がしたら必ずしも望む結果にはならないということである。ネット社会に推移したと言っても過言ではない昨今。皆が同じ情報をとっていくことで生まれる矛盾を考えてみたい。
日本の総資産は2016年度末、2年連続で1京円を超えた。負債残高は7146兆円になり、その内政府の借金は1000兆円ほどだ。総資産から負債残高を差し引けば、国富は3350兆円にも上る。メディアは政府の借金ばかりを取り上げるが、国富こそ抑えておきたい数字だ。家計の貯蓄額は2016年末には1824兆円を超え5年連続で増加。企業の内部留保も400兆円を超えて、共に過去最高となっている。日本全体として豊かになっていることがわかる。
国富は伸びるも家計にそういった雰囲気が無いのは、経済はお金を使わなければ回らないからだ。お金を使わずに蓄えが増え続けている理由はいくつかある。「失われた30年」とも言われた長いデフレによる買い控え志向、将来不安による節約志向は、経済が上向きの今も続いている。国富全体は増えているが、低所得者にとっては使えるお金の伸びは小さく、富裕層に集まった収入も貯蓄に回されている。
この状況を改善していくために、政府には、所得倍増論のような明るい将来構想を打ち出して欲しい。企業は努力して魅力的な商品・サービスを提供し、消費を刺激していく。個人はもう少し粘れば、人材難の現在、自然と給料が上昇していくだろう。社会全体としてマイルドなインフレに持っていかなければならない。
節約や貯蓄が増えることは、個々の企業・家計では素晴らしいことだが、日本全体としてはネガティブなことなのだ。
家庭での水道水の話で例えてみる。水道水を飲料水として利用できるのは、世界200カ国のなかでも15カ国(※)しかない。さらに日本は漏水率の低さがトップクラス。日本の水道インフラは素晴らしい。「水は出しっぱなしにしない」「水は大事に使おう」と節水を心がけるのも大切だ。
ところが水道局側からすると大変なことだそうだ。多くの家庭が節水すれば、水道料の収入が減り、工事に使える予算が減っていくという。結果、水道管が老朽化して錆水がでたり、漏水したりする。老朽化した水道管を新しいものに交換するのに、現状のペースで工事を進めると百年ほどかかるという。このままでは、修復した以上の水道管が壊れていくことになるだろう。節水することでそもそも綺麗な水が使えなくなる。まさに合成の誤謬だ。
繁栄し続けた国というのは、富裕層を中心に自分のことだけではなく、国全体のことも考えている。古代ローマ帝国で例えると、繁栄していた時期には、都市のインフラを整備するにあたり、富裕層が私財を投じ、市民も寄付を募り、国のために出し合っていた。しかしながら、ローマ帝国が崩壊する時期には、富裕層が公共のことにお金を払わなくなっていたのだ。
国のリーダー、地域のリーダー、会社やチームのリーダーというものは、常に全体的な視点と個人的な視点の二つの物事を見られる人だ。個において正義な行動をしたとしても、全体から見れば望まぬ方向に導いてしまうことがある。歴史や世界のニュースから学び、社会がより良くなっていくよう、物事に取り組んでいきたい。
※ 国土交通省 平成16年版「日本の水資源」より
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株式会社キャリアコンサルティング
代表取締役社長 室舘勲
今月のコラムから感じたこと
たとえ個人においては正しいことをしたとしても、
必ずしも公として望む方向にならないこともある。
大切なのは、一人ひとりがリーダーとして、全体的(国全体など)視点と
個人的(自分)視点の二つの物事を見られること。
ぜひ、ひとつの情報にとらわれるのではなく、さまざまな情報から学び、
社会が良くなっていくよう、物事に取り組んでみましょう!