「無いことに
ビビる必要はない」
人間同士や企業同士、持っている側と持っていない側、何かと差があるものだ。創業間もないころの私や、いまの若者の共通点が「持っていないことに劣等感がある」ということだ。今回は持っていないときの心構えと、個人や企業の成長について話していきたい。
起業したばかりのころの話。経営者としてまだまだ右も左もわからない私は、経営者同士の交流が大事だと思い、元気の良いベンチャー企業の社長が集まる会合に顔を出した。そこで「室舘社長は、中長期経営計画を考えていますか。会社の上場を考えていますか」と聞かれ、「簡単な経営計画しかありません。上場は考えていません」と答えた。
すると数名の社長から「本来会社は公共のもの。上場しないなんて、会社を私物化するつもりですか。おかしい!」とかなり強いダメ出しをされた。帰り道、社長になる資格がなかったのかと思い悩むほど落ち込んだ。
あれから15年ほど経った。今なお中長期経営計画はなく、上場する予定もない。しかし当時のような劣等感は無い。これまで経営をしてきたなかで、経営計画をしっかりと作ったり、上場させたりしたからといって、必ずしも成長していくわけではないことがわかったからだ。
それからは、目標や計画に固執するより「持続可能な成長」と「いかなる状況でも柔軟に対応できる強靭な組織づくり」を念頭に置き、ある程度納得のいく成長を遂げてきた。
時代の流れに乗って事業が急成長しても、その後、上手くいかなくなる企業もある。その理由の一つは実力のある管理職の不足である。従業員を急激に増やすことはできても、血の通った、人間力の高い管理職はすぐには増やせないのだ。会社の伸びは、経営者を含めた社員の器の拡大で決まる。社員教育を重視し、やるべきことをやれば、事業は自ずと発展すると信じている。
大企業が持っている福利厚生、社員食堂、社員住宅や設備など、比べはじめればキリがない。しかし、どんな大手企業も、最初は皆ベンチャー企業だった。本田技研、パナソニック、全日空などの有名企業も、日本の老舗企業の長い歴史から考えれば、最近できたばかりと言ってもよい。どの企業も何もないところから積み上げてきたのだ
個人でも同じことだ。成功している人と、今の自分を比べて劣等感を感じる必要はない。しがく式の黒帯や二段。あるいはS講師やA講師を見て「あのように話せません」「知識、知性が足りません」と言う人もいるが、彼らだって実力のない、知識・知性が足りない時期があった。
しかし、小さくとも着実に歩んできた人は確実に成長している。積み上げてきた人間は強いのだ。昔の彼らと今の彼らを比べれば、もはや別人だ。
劣等感から、背伸びをして急成長させようとしても結局は続かなくなる。たとえ周りより遅くとも、確実な一歩を歩み続ける、持続可能な成長をしていくことが重要だ。そのための秘訣は、無駄なことを捨てて、やるべきことに集中することだ。
スマホなど、便利なものがさまざま世の中にでているが、私は未だにスマホを持っていない。SNSや大量に届く意味のないメールに貴重な時間、寿命を持っていかれるからだ。
企業でも個人でも、目の前にあることを一つ一つ積み重ねることで、信頼を勝ち得て人生の基盤ができる。いかなる状況にも柔軟に対応できる強い組織、人になっていくのだ。無いことにビビる必要はない。
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株式会社キャリアコンサルティング
代表取締役社長 室舘勲
今月のコラムから感じたこと
個人・組織問わず、いかなる状況にも、
「持続可能な成長」「柔軟に対応できる強靭な組織・人づくり」が未来につながる。
そのためには、目の前のことを一つ一つ積み上げていくこと、一人一人の器の拡大が重要であると感じました。
持っていないことに劣等感を感じるのではなく、一つ一つ積み上げていき強い人間になっていきたいですね。