日本企業の現場力は「物語思考」で復活する | チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

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この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

 

日本の強みは“現場”にあり、等とかつては語られていたものでした。

モノづくり大国、技術立国、などと自称して

現実に日本製品が世界を席巻していた時代もありました。

 

その看板は今も建てられているものの、中身は相当に

弱体化していると思われます。

技術力が下がったからかと言えば、多分そうではなく、

技術力は上がってはいるものの、これを形にしていく能力が

劣化している、というのが本当のところだと思います。

 

国産の航空機開発という「夢」に向けて三菱重工が渾身で

取り組んだMRJ(Mitsubishi Regional Jet)の開発が、

昨年停止されました。事実上の開発凍結です。

 

この話は、重工がピカピカ輝いていた時代を知っている

私には相当にショッキングなニュースでした。

 

確かにMRJは大いなるチャレンジでした。

リスクもありました。

ただ、重工のトップには、ウチの連中なら何とかやり切るだろう

という読みがあったのだろうと思います。私もそう思っていました。

 

困難を乗り切る力が現場にはある、と信じられる体験を、

この会社のトップの人たちは、繰り返してきたはずだからです。

 

ではなぜ“読み”が外れたのか。

それは「物語思考」力の欠如だったのではないか、

というのが私の仮説です。

 

非常時、緊急時、あるいは不確実な事態にぶち当たった時に、

多様なストーリーをつなげながら、新たなストーリーを仮設して

危機を成長機会に変えていくことができる。

 

そういう力が、昨今の日本企業に決定的に欠けているのではないか。

そして、その問題がMRJの現場でも起きていたのではないか、

そういう想定が、ここにはあります。

 

MRJの開発にあたり機体全体の設計力不足は、かなり前から

指摘されてきたことでした。

三菱重工は部品の製造能力とか、素材の開発力、特殊な加工品の

制作力などを取れば、今も多分世界の最高水準でしょう。

 

しかし国産の航空機開発が止まってからの半世紀以上、

機体設計の専門家は社内どころが国内にもいなくなってしまい、

この部分は外部の知を借りながらやっていくしかない状態でした。

 

当初の純国産へのこだわりを捨て、2017年に同社は、

海外からトップレベルの技術者をスカウトで集め、

若くして旅客機開発に実績を持つアレクサンダー・ベラミー氏

を開発責任者に据えて、まさに世界最高峰のチームを構築しました。

 

しかし、それでもだめでした。

 

世界中から集まった一流のエンジニアたち、

加えて各々の領域では

世界トップ水準に君臨してきた重工のエンジニアたちの

協働を成功に導くことができなかった。

 

プライドとプライドがぶつかり合い、

各々の物語は接点を持たないままに

空中戦を繰り広げたのだろうと想像されます。

 

ベラミー氏は、

「1つのゴールに対しバラバラになっている組織だと感じた」

と言い残して、昨年6月に日本を離れました。

 

個々の技術力を見れば、ここには間違いなく世界最高水準が

集約されていたと捉えていいでしょう。

 

しかし、

設計(技術)には思想がある。考え方がある。

データを重視するか、モデル先行で考えるか。

安全をどういう基準で考えるか、

何を持って耐久性を判断するか、等々。

 

これらの問題を解くことができなかった。

 

こうした一つ一つに対して、

現場の意思決定は必ずしも“科学“ではありません。

そして思想や価値観だけでもありません。

 

実は問題の9割は関係性です。

 

つまりお互いのストーリーを理解して、そこに信頼の核となる

関係の構造を作り上げていく力が無ければ、

相互に納得できるストーリーを築くことができない。

技術を支える思想同士をつなぐことができなくなる。

そこを放置すれば、結局同じ問題が繰りかえされてしまうのです。 

 

欠けていたのは「物語思考」の発想。

その欠如は、数千億円の損失を生んでしまうほどに深刻な問題です。

 

既にお気づきのごとく、

MRJの例は、すべての企業にとって「他山の石」ではありません。

どこにでも起きているし、起きておかしくない問題です。

 

私たちはあまりに、データ、実証、実績を重視する思考に

偏り過ぎて来ました。

それらは勿論大事なことだけれども、

それだけでは今の時代は乗り切れないのです。

 

今の日本企業には、人間と人間を繋いでいく

別の知恵が必要になっています。

そのことに早く気づいて手を打たないと、

状況はもっともっと悪くなってしまいます。