まいど~カエル

生きもの大好きドキドキ絵本講師のくがやよいです。

 

 

 

『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集

寮 美千子/編  新潮文庫

 

 

 

3月31日。 

作家の寮美千子さんの講演会に行ってきました。

奈良少年刑務所で童話と詩の授業をされ、

受刑者の少年たちが書いたこの詩集を 

世に出された方です。

 

 

 

 

作者のお話を聞いてからとそれ以前では

本から受け取るものが全然違います。

 

物語(この場合はドキュメント)の

背景にあるものを知ることで

本の読み方はぜったいに変わります。

(これは絵本の読み聞かせも同じです)

 

 

 

この詩集もそうでした。

 

 

 

講演の詳しい内容は

この本にも書かれているので割愛しますが、

寮さんの熱い想いがまっすぐに伝わってきて

私の胸の深い深いところに届きました。

 

 

 

 

 

奈良少年刑務所の建物は

明治41年(1908年)につくられた

明治五大監獄のひとつ、奈良監獄です。


「罪を犯した人を懲らしめて

劣悪な環境におくことは間違いだ。

彼らの心を癒し、

二度と犯罪を起こさせないように

心を育てる教育の場となるよう

美しい刑務所をつくろう」



と、明治政府が威信をかけて造った壮麗な建物です。

 

模型俯瞰図。

 

 

煉瓦造りの建物は夏は暑く、夜もオーブンさながら。

寮舎に冷暖房はなく、冬は底冷えするそうです。

 

 

1946年に少年刑務所に改組されましたが

近年 アベノミクスのターゲットとなり、

2017年 廃庁となってしまったそうです。

 

 

2006年

監獄法が改正され、文学と言葉の授業を依頼された寮さん。

 

 

「この子たちは加害者になる前に

被害者のような人生を送ってきた子ばかり。

発達障害を理解されなかったり、

障害によっては、なまじ勉強ができるために

先生にもクラスメイトにも理解されてこなかった、、、

 

貧困で、人生を諦めなければならなかったり、

社会的地位のある親の子も  何パーセントか。

みんな愛情を受けてこなかった子たちです。

 

辛すぎるから、薬物に走り、

辛すぎるから、心を閉ざしてしまう。

性犯罪や放火も根は同じで

虐待を受けてこなかった子は見たことがない。

 

その心を、絵本や文学で耕してほしいと依頼されました」

 

 

 

全6回の授業のうち、

一回目はこの絵本を読み、

主人公や登場人物を演じる授業だったそうです。

 

アイヌ関連の著作も多数ある寮さん。

 

 

『おおかみのこがはしってきて』

寮 美千子/文

小林敏也/画 

ロクリン社

 

 

 

少年たちと、物語を読んでいく。

子どものころから、親や、教師からも見放され、

授業で あてられることもなく

ただ教室の片隅に居た子どもたちが

 

初めて「主人公」として自分を認めてもらえる。

その達成感が 彼らの頑なな心をほぐす

きっかけとなったそうです。

 

 

自ら「子ども役をしたい。」と言い、

実にかわいらしい子ども役を演じた

大きい体をした レスラーのような少年。

 

 

「彼は、子どもらしさを出してこられなかったんです。

家庭の事情で子どもらしさを出すことができずに

ずっと大人のふりをして生きてこなければならなかった。

だから、自分の中の子どもを解放したかったんでしょう」

と教官。

 

 

演じたあとの彼らは とてもいい表情で

二回目も絵本を読み

三回目は詩を読むことに挑戦します。

 

 

「教える」のではなく、声に出して読み、

一人一人感想を聞いていく。

回を重ねるごとに表現がのびのびとしてきて、

その後、彼らに詩を書いてもらうそうです。

 

 

そして生まれたのが

詩集のタイトルにもなった「くも」という詩です。

 

 

 

くも

 

空が青いから白をえらんだのです

 

 

 

13歳で薬物を使用していたAくんの詩です。

「・・・覚せい剤って何ですか!?

手渡す大人が悪いでしょう」と寮さん。


 

彼を金属バットで殴っていた酒乱の父親に

頭を割られ、言語障害が残り、

普段あまりしゃべらないAくんが

自分の詩を朗読した後、話したいことがあります、と

堰を切ったように語りだしたそうです。

 

 

「今年でおかあさんの七回忌です。おかあさんは病院で

『つらいことがあったら、空を見て。そこにわたしがいるから』

と ぼくにいってくれました。それが最期の言葉でした。

おとうさんは、体の弱いおかあさんをいつも殴っていた。

ぼく、小さかったから、何もできなくて・・・・・・」

 

 

Aくんがそう言うと、教室の仲間たちが次々と手を挙げて、

 

 

「この詩を書いたことが、Aくんの親孝行やと思いました」


「Aくんのおかあさんは、まっ白でふわふわなんやと思いました」


「ぼくは、おかあさんを知りません。

でも、この詩を読んで、空を見たら、

ぼくもおかあさんに会えるような気がしました」


と言った子は、そのままおいおいと泣きだしました。

 

 

たった一行に込められた思いの深さ。

Aくんの詩が、みんなに届き、心を揺さぶる。

少年たちは、感じたことを言葉にして発表するのですが

あふれ出てくる言葉は、優しさに満ちていました。

 

 

 

すきな色

 

ぼくのすきな色は

青色です

つぎにすきな色は

赤色です

 

 

 

「何も書くことがなかったら、好きな色について書いてください」

と言った寮さんに、この詩を提出したBくん。

 

あまりに直球で、どんな言葉をかけたらいいのか

寮さんがとまどっていたとき、

受講生の少年が二人、手を挙げます。

 

 

・・・読んでほしいので、ここには書きませんが、

 

世間のどんな大人が、

どんな先生が、

こんなやさしい言葉を、Bくんにかけてあげることができるか・・・

 

 

胸がいっぱいになり、涙が溢れました。

仲間の言葉全部が、Bくんへの大きな励ましになっていました。

 

 

 

 

当たり前のことかもしれないけど、

言葉には力があります。

あたたかい言葉は 人を生かし、

冷たい刃のような言葉は、殺しもする。

 

 

自分の中にある言葉、想い、気持ちを

詩で表現していく。

感想という形で表現していく。

自分自身と、相手と 向き合う時間。

 

 

「あたりまえの感情を、あたりまえに表現できる。

受け止めてくれる誰かがいる。

それこそが更生への第一歩です。」と寮さん。

 

 

 

そんな詩の授業が繰り返されて、

子どもたちはどんどん自分の気持ちをさらけ出し、

言葉を紡いでいきます。

 

 

 

 

『あふれでたのはやさしさだった』

奈良少年刑務所 絵本と詩の教室

寮 美千子/著

西日本出版社

 

 

 

 

 

虐待されて、死んでしまう子どもたちがいる。

世間の「無関心」にも 殺されてしまう。

でも、生き残った子たちがその後、どんな風に育っていくのか。

考えてみてほしい。

 

寮さんは、問いかけます。

 

 

彼らの大きな変貌ぶりを思うと、わたしはなんだか泣けてきてしまうのだ。

彼らは、一度も耕されたことのない荒れ地だった。

ほんのちょっと鍬を入れ、水をやるだけで、こんなにも伸びるのだ。

・・・・・・

こんな可能性があったのに、いままで世間は、彼らをどう扱ってきたのだろう。

このような教育を、もし、ずっと前に受けることができていたら、

彼らだって、ここに来ないですんだのかもしれない。

被害者も出さずに、すんだかもしれない。

「弱者」を加害者にも被害者にもする社会というものの歪みを

無念に思わずにはいられない。

(青文字部分は、『空が青いから白をえらんだのです』より抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

光を消してしまう子がいないように。

あの子のために。

「子どもはみんな星」という詩を思い出します。

 

 

 

私は、先生と子どもたちが時間と空間を共有する

授業の時間が好きです。

 

それは、

刑務所という特殊な空間であったとしても

同じなのではないかな、と思います。

 

 

 

14日は、奈良で

奈良少年刑務所の教官をされていた乾さんの

講演会があります。

寮さんと同じ教室にいらした少年たちの先生です。

 

 

その日は、絵本講師の交流会の日なんですが

いつか自分がやりたいと思っていることと

寮さん、乾さんのお話が繋がっているような気がして、

奈良に行ってこようと思います。

 

 

 

 

書くことができれば、また記事にしたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

2010年に長崎出版より刊行された詩集の文庫版です。

(この文庫版のあとがきもぜひ読んでほしいです・・・)