天才エコノミストの植草一秀氏が新著を上梓された。会員制のTRIレポート(『金利・為替・株価特報』)の年次版が2013年から刊行されているが、その24年版だ。混迷する世界と衰退を続ける日本を尻目に、生き残る投資戦略術を伝授している。
 

資本主義の断末魔 悪政を打ち破る最強投資戦略


 専門家による23年の経済・金融見通しは、弱気一色だった。コロナパンデミック騒動がまだ持続し、ウクライナ戦乱と米国金融引き締めという暗雲が世界を覆っていた。その中で、植草氏の前年著『千載一遇の金融大波乱』は日経平均株価急騰を予言して見せている。23年初の株価安値2万5661円から、同年6月19日には3万3772円の暴騰を演じた。

 同書の主題は、①激動する現代経済金融動向の解析②世界経済の正体と行く末の展望ならびに政治哲学の考察③悪性を打ち破る最強投資戦略の提示――の3点にまたがる。

 24年の金融市場に残存する四大リスクの第1は、物価上昇の中で日本銀行が金融緩和路線を円滑かつ適正に修正できるか。インフレを未然防止するには、短期政策金利引き上げ決定を避けて通れないと指摘する。第2は、中国が不動産バブル崩壊の後処理をうまくできるか。第3は、米国大統領選の行方。第4は、中東情勢の不安定化。イスラエルとイランが交戦状態に陥れば、その影響は計り知れないと警告する。

 著者は、コロナ騒動の茶番性にも言及している。19年10月、ニューヨークで開かれた「イベント201」で予行演習されてきたことを挙げ、「ワクチンのためのコロナ」だったと両断。公的事業ビジネスの暗躍を次のように形容する。

 「戦争が創作される。疫病が流行し、世界規模でワクチン接種が推進、強要される。公的事業分野が民間資本によって収奪される。これらの近年に顕著な経済現象は、資本主義経済が成長の限界に直面する中で、飽くなき利潤追求を求める巨大資本DS(Deep State)の最後の刈り取り場の顕在化を意味している疑いが強い。」

 わが国は人口100人あたり接種回数世界第1位だが、医療業界への巨大な財政投下が背景にある。コロナ医療関連の政府支出は16兆円。ワクチン代金として2.4兆円が計上された一方、接種費用として2.3兆円が計上され、ワクチン接種を行う医師や診療所には恵みの雨となった。さらに病床確保のために6兆円が計上され、コロナ指定病院となった国立病院や公立病院、地域医療機能推進機構等の収支が赤字から一転、巨額黒字を拡大させた。

 東アジア諸国の緊張も、米国軍産複合体の公共事業ビジネスがもたらす。20年の台湾総統選に際しては、民進党候補者を勝利させるために米国が工作して香港における民主化運動を創作。それに対する中国による抑圧行動が誘発されたと指摘。24年1月の台湾総統選でも、米国の工作によって中国との緊張関係が高められる可能性がある。

 北朝鮮との関係も同様だ。米国のトランプ前大統領は金正恩(キム・ジョンウン)最高指導者と2度会談したが、2回目に向け米国側が一気に硬化し、北朝鮮側が一方的に全面的核廃棄を行うことを和平条件にしてきた。東アジアにおける緊張関係の構築は、日本の軍事費増大の重要なエネルギー源だからと指摘する。

 グローバル資本が各国の民衆を虫けらのように踏みつける世界で、著者の植草氏が期待を寄せるのが、ロバート・ケネディ・ジュニアの米大統領選出馬である。彼がワクチンビジネスに対する強い警戒論を唱え、ウクライナ戦乱も巨大資本の利益のためであると発言していることを挙げ、「米国を支配する巨大資本DS勢力と真っ正面から“対峙”する方針を明示している」と評価。巨大資本がメディアを駆使して人物攻撃し続ける中、調査で一定の支持を集めていることは「驚異的」であると賞賛する。

 同書を読むにつれ、日本政府の愚挙に暗たんたる気持ちになる。岸田文雄内閣は経済安全保障を第一に掲げ、担当相を置いているが、実質実効為替レートで見ると日本円の力は1970年代の水準を下回った。しかし、通貨暴落を放置する愚を続けている。

 「日本の優良企業の所有権、優良不動産の所有権、水資源の不動産所有権が激しい勢いで海外流出している。これ以上重大な経済安全保障問題は存在しない。」

 円安の進行を植草氏は「セルジャパン政策」とやゆする。「国防費倍増を叫びながら日本円暴落を放置するのは、砂上に鉄骨ビルを建造するようなもの」。

 円暴落の是正策として有効なのが、1兆ドルの米国債売却である。1ドル150円の水準で売却すれば45兆円程度の為替差益が実現する。しかし、橋本龍太郎首相や中川昭一財務相らの不審死から、これに関する発言は禁忌されている。「しかし、この状態を放置するなら、日本を独立国ということはできない」と指弾する。

 政府と日銀が「物価と賃金の好循環」なる言葉を使うことに、著者は首をかしげる。インフレを沈静化させるために最も重要な点は、賃金と物価のスパイラルを防止することだからだ。物価と賃金のスパイラルを発生させてしまうとインフレ抑止が困難になり、金融政策運営上、御法度とされてきた。

 インフレ誘導策が続けられる中、日本の労働者の実質賃金は、1996年から2022年までの26年間に、何と14.4%も減少している。著者によれば、日銀がここまでインフレを追求するのは、1100兆円に迫る借金をハイパーインフレによってチャラにしたい財務省の思惑があると推察する。これによって生活苦を強いられる勤労者はたまったものではない。

 こうした一連の弱肉強食政治を終わらせるために植草氏が15年に立ち上げたのが「オールジャパン平和と共生」である。経済政策として、①最低賃金引き上げ②生活保障制度確立③消費税減税・廃止――を掲げる。

 投資戦略については、第5章「生き残るための金融投資戦略」に直接当たっていただきたい。「五箇条の極意」や注目21銘柄を収録する。

 一点だけ触れると、株式銘柄選定に当たり、とりわけ注目すべきは株価収益率(PER)と株価純資産倍率(PBR)だという。PERは株価が1株当たり利益の何倍であるかを示し、PBRは株価が企業の1株当たり純資産の何倍であるかを示す指標。日本にはまだまだ割安なまま「放置」されている株式が多く、外国人投資家が虎視眈々(たんたん)と狙っている。

 投資する人も投資しない人も、これから1年間の内外政治経済を短時間に見通すことができる1冊である。