11月15日の午後、ポーランドの対ウクライナ国境近くのプシェボドフ村に1発の
ミサイルが着弾し、村の2人が死亡した。ミサイルはウクライナから飛んできた
ものだった。ロシアとの戦場になっているウクライナの上空は、防空レーダーな
どによってNATOに詳細に監視されている。ウクライナからポーランドに飛んだミ
サイルは、瞬時にNATOによつて確認され、即時にポーランドを含むNATO加盟諸国
に伝達されたはずだ。だがポーランド政府(外務省)は事件発生後まもなく、着
弾したのは「ロシア製のミサイル」だと発表し、ポーランドに駐在するロシアの
大使を呼びつけて詰問した。

https://www.rt.com/news/566710-polish-missile-incident-nato/
NATO's hair trigger: The Polish missile incident was a close brush with nuclear annihilation

https://en.wikipedia.org/wiki/2022_missile_explosion_in_Poland
2022 missile explosion in Poland - Wikipedia

実のところ、着弾したのは「ロシア製」でなく、ロシアの前身であるソ連が開発
したS300地対空迎撃システムのミサイル(5V55)だった。S300はソ連時代にロシ
アやウクライナなど旧ソ連諸国に配備され、ウクライナは冷戦後にソ連から独立
した後もそのままS300を使用し、ミサイル部分は自国のキエフ工場で製造してき
た。ポーランドに着弾したのは「旧ソ連が開発したウクライナ製のミサイル」だ
った。ミサイルの胴体部分にはウクライナ語で製造番号などが記載されており、
プシェボドフ村に着弾し爆発したミサイルの破片もウクライナ語の製造番号が読
み取れた。ポーランド政府が着弾の現場を調べて「着弾したのはウクライナのミ
サイルのようだ」と言い直したのは事件発生から1日たった後で、それまでポー
ランド政府は不正確なロシア犯人説を言い続けていた。

https://sputniknews.com/20221117/nato-admits-zelensky-openly-lied-about-poland-strike-as-observers-slam-kiev-for-pushing-for-ww3-1104339186.html
NATO Admits Zelensky 'Openly Lied' About Poland Strike as Observers Slam Kiev for Pushing for WW3

https://www.rt.com/news/566656-poland-lublin-ukraine-missile/
Missile incident was Ukrainian ‘provocation’ - Polish politician

ウクライナ戦争の戦闘がNATO加盟国に飛び火したのは2月の開戦以来、これが初
めてだった。ポーランド政府はロシアを非難するだけでなくNATOにも連絡し、加
盟国であるポーランドの安全が脅かされているので条約の第4条を発動して対策
を協議してほしいと要請した。「ロシアがミサイルを撃ち込んできたので、NATO
として反撃するかどうか協議してほしい」という意味だ。NATO4条の協議は、集
団的自衛権の行使である5条を発動する際の前提となる。「ロシアが、NATO加盟
国であるポーランドをミサイルで攻撃した」という歪曲話を「事実」とみなし、
ロシアを敵として4条から5条への発動に進むと、米国が主導するNATOとロシアが
世界大戦に突入する構図ができあがる。11月15日のミサイル騒動は、米露が戦う
「第三次世界大戦」を引き起こすための「トンキン湾事件(ベトナム戦争を誘発
した捏造の事件)」になりかねなかった。

https://responsiblestatecraft.org/2022/11/17/lessons-from-the-polish-missile-crisis/
Deep breaths: Article 5 will never be a flip switch for war

https://sputniknews.com/20221116/analysts-poland-operating-on-hair-trigger-seeking-any-excuse-to-drag-nato-into-ukraine-conflict-1104303434.html
Analysts: Poland Operating on 'Hair Trigger' Seeking Any Excuse to Drag NATO Into Ukraine Conflict

NATOの事務局や米国は結局、ロシア犯人説を採用しなかった。ポーランドに着弾
したのがロシアでなくウクライナのミサイルだったことは着弾した瞬間からNATO
のレーダーに映っており、NATOや米国がロシア犯人説を採用しなかったのは
「常識」で考えると当然だ。だが、常識が通らず、ウソと非常識が次々に延々と
まかり通るのがウクライナ戦争だ。ポーランド政府は、レーダー情報などから、
着弾したのがウクライナのミサイルだったことを最初から知っていたはずだが、
意図的にそれを無視してロシア犯人説をとった。NATOや米国も、ロシア犯人説こそ
正式採用しなかったが、誰が撃ったのかわからないという姿勢をとり、米国側の
マスコミがロシア犯人説を喧伝するのを誘発した。

https://www.ft.com/content/d417ea8f-62ee-4bb8-966b-a85a98fc6b3a
Ukraine and western allies at odds over missile that exploded in Poland

https://www.rt.com/news/566657-us-russia-responsible-poland-missile/
US says Russia ‘ultimately responsible' for Poland missile incident

NATOや米国は、ポーランド政府がウクライナ犯人説に転向するのと前後して「着
弾したのはウクライナのミサイルのようだ」と言い出した。ウクライナ犯人説が
優勢になったが、それで確定したわけでなく、この事件の全容は曖昧なままだ。
11月15日、ロシア軍がウクライナのエネルギーインフラをミサイル攻撃しており、
露軍が飛ばしてきたミサイルをウクライナ軍がS300で迎撃している時に、迎撃用
ミサイルの1発が正しく発射されずポーランドに飛んでしまった可能性がある。
米高官の中には「だから今回の事件で悪いのはロシアだ」と言っている者がいる。
民間専用の設備を破壊すると戦争犯罪だが、露軍が攻撃したのは軍民共用の設備
なので戦争犯罪にならないという説もある(ウクライナがロシアのインフラを
攻撃してきたので露軍が報復した)。どちらにせよ、ウクライナ軍が発射した
迎撃ミサイルの1発がポーランドに着弾したことは、NATOもポーランドもウクラ
イナもレーダーで瞬時に知ったはずだ。それをウクライナがすぐに認めて発表し
ていたら、今回のような世界大戦につながりうる事態にならなかった。

https://www.rt.com/news/566725-us-wont-sacrifice-for-warsaw/
Russian experts explain why NATO brushed the Poland missile incident under the carpet

https://www.zerohedge.com/geopolitical/kyiv-demands-access-poland-blast-site-doubles-down-russian-attack-narrative
Kyiv Demands Access To Poland Blast Site, Doubles Down On 'Russian Attack' Narrative

ゼレンスキー大統領のウクライナ政府は、事件発生後すぐにロシア犯人説を声高
に言い出し、翌日にポーランドがウクライナ犯人説に転向した後もロシア犯人説
に拘泥し、転向したポーランドに対して「ウクライナのミサイルだというなら証
拠を見せろ」と言い続けた。NATOや米国がウクライナ犯人説に傾き、米高官がウ
クライナ政府に電話してロシア犯人説への拘泥を批判したと報じられた後、よう
やくゼレンスキーはこの件について沈黙した。ウクライナではメディアの論調が
ゼレンスキーに批判的になったが、ゼレンスキーは批判的なメディアを潰しにか
かっている。

https://www.rt.com/news/566715-poland-missile-incident-response/
Washington reprimanded Kiev over missile incident - CNN

https://www.rt.com/russia/566707-zelensky-strana-media-petition/
Zelensky cracks down on popular news outlet as repressions against media intensify in Ukraine

こうした経緯からして、ミサイルがポーランドに飛んだこと自体は偶発的な事件
だったとしても、その直後に米政府の担当者がウクライナとポーランドに連絡し
てロシア犯人説を採らせた可能性がある。米国は2014年の政権転覆(マイダン革
命)以来、ウクライナ政府を傀儡として動かしている。レーダーの記録や現場の
ミサイル破片の製造番号など、物的証拠があまりに明白なのてポーランド政府が
転向し、はしごを外されて犯人扱いされたゼレンスキーが「証拠を見せろ」と騒
ぎ、米当局者が電話して黙らせた。そんな経緯が感じ取れる。

https://korybko.substack.com/p/ukraine-tried-to-trick-nato-into
Did Ukraine Try To Trick NATO Into Starting World War III After It Accidentally Bombed Poland?

https://www.zerohedge.com/geopolitical/zelensky-backtracks-after-urging-nato-action-polish-border-blast
Zelensky Backtracks After Urging NATO Action For Polish Border Blast

ロシアは戦争プロパガンダの戦いでは、米英にボロ負け、というか不戦敗してい
る。今回のミサイル騒動で、ロシア犯人説は引っ込められたもののウソと確定し
ておらず、ロシアへの濡れ衣は晴らされていない。4月初めの「ブチャ虐殺事件」
も、ロシアに濡れ衣がかけられたままだ。今回ロシアにかけられた戦争犯罪の
濡れ衣はいくつもあるが、いずれに対してもロシアがあまり反論せずに話が終わ
っている。

https://tanakanews.com/220408bucha.htm
市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア

https://tanakanews.com/220421kramatorsk.htm
濡れ衣をかけられ続けるロシア

2014年7月にウクライナ東部のドネツク上空を飛んでいたマレーシア航空機MH17
便が何者かに撃墜された事件について、オランダの裁判所が11月18日に、ウクラ
イナ軍でなくロシア人らの仕業だと結論づける判決を出した。ウクライナ政府は、
当日のレーダーの記録を裁判所に出すことも拒否しており証拠を隠匿しているが、
オランダの裁判所はウクライナ(と米NATO)に味方してロシア側の犯行と断定し
た。実際のMH17便は、ウクライナ内戦でウクライナ軍が撃った流れ弾に当たって
墜落した可能性が高い。ロシアは判決を非難している。この濡れ衣も晴らされな
いままだ。

https://tanakanews.com/180528mh17.php
MH17撃墜事件:ひどくなるロシア敵視の濡れ衣

https://sputniknews.com/20221117/moscow-slams-dutch-courts-politically-motivated-verdict-in-mh17-trial-1104342835.html
Moscow Slams Dutch Court's Politically-Motivated Verdict in MH17 Trial

https://www.theburningplatform.com/2022/11/14/fourth-turning-winter-of-death/
You Can't Escape The Fourth Turning's Winter Of Death

ロシアはプロパガンダの戦いで連敗しているが、戦場の戦いではおおむね優勢だ。
「名を捨てて実を取る」の観がある。露軍は巧妙な攻撃でウクライナのエネルギ
ーインフラの半分近くを破壊し、ウクライナはこれからの厳冬期、多くの地域で
居住不能になり、国民の戦意喪失と難民化が加速する。ウクライナは厳しい戦い
を迫られている。今後の厳冬期に居住不能になるのはウクライナだけでなく、
ロシアからの石油ガス輸入を急減したドイツなど西欧諸国も同様だ。ドイツでは
燃料不足が悪化して停電も予測され、市民生活が困難になり、経済成長が止まっ
て自滅的な退化が進んでいる。ウクライナ戦争は世界大戦の懸念すら高めてしま
い、ドイツなど欧州にとって何の利得もない。欧州人は馬鹿だ。

https://tanakanews.com/220624russia.htm
プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類

https://www.moonofalabama.org/2022/11/ukraine-switching-the-lights-off.html
Ukraine - Switching The Lights Off

https://www.zerohedge.com/energy/ukraine-has-lost-40-energy-system-kyiv-sees-first-snow-freezing-temps
Ukraine Has Lost 40% Of Energy System As Kyiv Sees First Snow, Freezing Temps

露軍は10月後半、ドニエプル川右岸のケルソン(ヘルソン)から撤収してウクラ
イナ軍に明け渡しており、これが「露軍の惨敗」として米国側で喧伝されている。
だが、ロシアはウクライナで長い戦争を予定しており、露軍とウクライナ露系住
民の犠牲を最小限にするため、ウクライナ軍が米欧から支援されてしつこく攻撃
してくる場合は撤退するようにしている。ウクライナ戦争が長引くほど、ドイツ
など欧州の自滅が進み、欧州が対米従属とロシア敵視をやめて親露・非米側に
転換する可能性が強まる。欧州の非米化が、ロシアと米多極派が共有するウクラ
イナ戦争の隠れた目標になっている。

https://www.zerohedge.com/geopolitical/escobar-sun-tzu-walks-kherson-bar
Escobar: Sun Tzu Walks Into A Kherson Bar...

https://tanakanews.com/220624russia.htm
プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類

https://tanakanews.com/220421kramatorsk.htm
濡れ衣をかけられ続けるロシア



この記事はウェブサイトにも載せました。
https://tanakanews.com/221119ukraine.htm



●最近の田中宇プラス(購読料は半年3000円)

◆債券金融システムの終わり
https://tanakanews.com/221117credit.php
【2022年11月17日】1980年代から米英を中心に世界に資金を大量供給してきた
「債券金融システム」が終わりにさしかかっている。このシステムは、1972年の
ニクソンショックによる金本位制の崩壊後の状況を利用して構築され、1980-90
年代に開花・拡大した。だが、拡大はバブル膨張でもあり、2000年代になるとバ
ブル崩壊し始め、2000年のIT株バブル崩壊、2007-08年のサブプライムローン
危機からリーマン倒産で信用不安を引き起こし、いったんシステム破綻した。
その後、米欧日の中央銀行群が造幣した資金で債券を買い支えるQEを開始し、
破綻した債券システムを蘇生したように見せかけて延命させた。この延命体制は
現在まで続いているが、かなり行き詰まっている。

◆米中間選挙で大規模不正の可能性
https://tanakanews.com/221110midterm.php
【2022年11月10日】米国の中間選挙で、民主党側(+諜報界)によって大規模
な不正が行われた可能性が増している。前回2020年の選挙で民主党による不正
を可能にした、歪曲された選挙管理体制はそのまま今回の中間選挙まで温存さ
れた。民主党が握ってきたネバダやワシントン、オレゴンなどの諸州では、コ
ロナ対策を口実とした郵送投票制度の拡大が継続し、選挙不正が2年前よりも
やりやすくなった。開票には数日から数週間かかる(ブラジルは3時間で開票
したのに!!)。時間をかけて開票結果を出す、ニセの投票用紙の束を適宜追加
するなどして不正の度合いを調整し、最終的な「共和党辛勝」もしくは「民主
党の意外な勝利」の形を作っていける。

◆EU自滅の行方
https://tanakanews.com/221103europ.php
【2022年11月3日】欧州では、露敵視・米傀儡のエリートと、それに反対する民
意や右派ポピュリストとの分裂がひどくなる。EUやNATOが決定不能な状態を続け
る状況が今後も続く。転換は簡単でない。米傀儡から対米自立・親露へとすっき
り変わることはない。対米自立・親露化した諸国は、NATOやEUから離脱するので
なく、残留し、全会一致の制度を逆手にとって、NATOやEUが何も決められないよ
うにすることで、米覇権の衰退を加速させ、ロシアを助ける。

 

田中宇の国際ニュース解説 無料版 2022年11月19日 https://tanakanews.com/