6月4、5日の2日間、正確には5月28日にもヴァーチャルセッションが開かれていますが、ロンドンでG7蔵相・中央銀行総裁会議が開催されました。この会議では毎回声明 (COMMUNIQUÉ) が取りまとめられており、今回も取りまとめられました。

 その概要は財務省のサイトの該当ページにも仮訳が掲載されているのでそちらをご参照いただくとして、今回の声明で注目すべき点は、世界的な税の公平性を担保するため、払うべき国において適正に税を支払う税制とすべきこととしたこと、そして、法人税の最低税率を15%に設定することとしたということです。(そこまで引き下げろという話ではなく、それ以下に引き下げてはならない、少なくとも15%なので、それ以上にしろ、そういうことです。)

 G7蔵相・中央銀行総裁会議では、長年にわたり租税回避地、いわゆるタックス・ヘイブン(天国ではありません)問題への対応が議論されてきました。私の記憶でも、政策担当秘書をしていた8年前の同会議の声明では、租税回避地問題が一つの大きなイシューとして取り上げられていましたし、その頃からこの問題は注目されるようになっていたと思います。

 今回の世界的な税制改革は、この租税回避地問題への対応の延長線上、決定的な解決策の方向性を示したものと位置付けられているようです。法人税の最低税率も同様で、世界的な法人税の引下げ競争に終止符を打ち、グローバル企業、多国籍企業に振り回される現状を終わらせよう、そうしたことを狙ったものでもあるようです。

 しかも、なんと米国バイデン大統領は、この最低税率を21%とすべきと提案していたようです。しかし、まずは出来る限り多くの国が受け入れて実施することを念頭に、妥協案的に15%となったようです。

 法人税率を引き下げなければ企業が逃げるだろう、法人税を引き下げれば企業の競争力が増してその国の経済は成長するはずだ、と言われたのは今は昔、紆余曲折を経ながらも法人税率の適正化の流れは着実に進んでいくでしょうね。

 ところが、我が国には、まだ法人税率の大幅引下げなんてことを、政府への提言に記載したり、来たるべき衆院選の公約に堂々と掲げようとしたりしている政党があるようで、なんとまあ情勢の変化に疎いことか。その政党、特定の地域を中心に支持を集めているようですが、支持する有権者の良識も疑いたくなりますね。まあ今回に限らず、G7蔵相・中央銀行総裁会議の状況を大手メディアはちゃんと伝えていないようですし、こうした税制の話についても報道されているのを見たのは、外資系ペーパーや英国やフランスのメディアですからね・・・

 ついでに書いておくと、先ほど概要は財務省のサイトの該当ページを参照しましたが、仮訳であることをいいことに、本質的な部分はしっかり誤魔化しているようですよ。サイトを見るなら、同じ財務省でも英国財務省の方がいいかもしれません・・・

 

『三橋貴明の「新」経世済民新聞』
 2021年6月8日
 不毛な法人税引下げ競争に
 終止符が打たれるか?

 From 室伏謙一
  @政策コンサルタント
   /室伏政策研究室代表