ここに来て3か月目に入ったある日の事。
「おい、そろそろ面会するか?」あるコーチが言う。
早い者で3か月位。ヨットの腕が上達し、生活態度も良く、脱走の気配もなければ親との面会が許される。
面会と言っても5分10分顔を合わせるような事ではなく、K旅館に親と一緒に一泊する事が許されるのである。
「はい。是非お願いしたいです。」
「よし、わかった。ただお前その口では流石に親と会わせれんやろ!ヨシ明日病院行くぞ。」
コーチの暴行により、上唇が真ん中よりやや左の辺りで真っ二つに割れ、真ん中側が垂れ下がり、左側と段違いにくっついた歪な状態のままだった。
次の日、スクールのかかりつけ医であるH病院に連れていかれた。
病室に通されると強面の口の荒い先生が、
「なんやお前!おもろい事唇くっついたな。(笑)」「お前これ直さんでもええんやないか?(笑)」「まあええ、直したろか。おまえ麻酔いらんやろ?」
「いいえ、お願いします。」
「なんや、いるんか。めんどくさいのう。」
乱暴に注射針を唇に刺す。
「痛!」
針が刺さりすぎて貫通して口の中に麻酔の液が広がる。
「せ、先生、あの、麻酔・・口に・・」
「なんや男のくせに、辛抱せいや!」
唇にメスが入る。
「~ッ!」激痛が走った!
痛みに耐え汗だくになりながら手術が終わった。
その後約一週間、抜糸も済ませ、いよいよ面会前日を迎えた。
表面的には優等生を演じていたものの心の奥にある両親に対する憎しみは少しも消えていなかった。
面会は脱走の大きなチャンスであるが、やはり警戒が張られる。もし失敗すれば奄美までの脱出は不可能になるだろう。実際、過去の面会中の脱走はほぼ失敗している。
それより、ここで逃げずに、両親への改心の態度を演じれば一気に信用が上がる。
そうすれば、更に警戒は緩むであろう。更に、もし補助コーチのような役割にでもつければコーチの張り付かない時間もあり、断然チャンスが増す。
そんな事を考えながら、いよいよ面会の当日を迎えた。