自分だけ少し訓練を早めに終わり合宿所に戻ると両親がいた。
顔を見た瞬間、胸の中で怒りがこみあげてくるのを抑え
「お父様、お母様、本当に申し訳ありませんでした。」と深く頭を下げた。
唖然とする母
「え、あなた・・本当に〇〇なの?嘘のよう・・」
「はい。お母さん、ここに来て僕は漸く目が覚めました。今までは本当に申し訳ありませんでした。」
「・・・・」涙ぐむ母。
夕食にはまだ時間が早いので、親子3人で最寄り駅近くにいった。
この瞬間にでも脱走はできたが、以前のように文無しで脱走するような無茶はしない。
「何か食べたいものはない?」
「そうですねー。」なんだって食べたい。
毎日、味気の無い空腹を満たすだけの食事をとっている訓練生にとっては、外の物は全てご馳走だ。
高級ステーキやすき焼きなんかより、マクドナルドのハンバーガーやカップヌードル等、普通に食べられる物が無性に食べたかった。
駄菓子、チョコレート、キャラメル、まんじゅう、せんべい、ヤクルト、ジュース、全てがご馳走だ。
以前、一度だけ訓練の昼休みに、近所の方が差し入れてくれたコーラを飲んだが、コーラがこれほど美味いと思った事はなかった。
「あの、シュークリームが食べたいです。」
生れてはじめて口にしたタカラブネのシュークリーム。
こんなに美味しいシュークリームを食べたのは初めてだ、と思えた。
心が澱んでいても口は正直。
少し早めに旅館に入る。
食事には少し早く色々話しかけられるのがとても鬱陶しかったが、何を言われても笑顔で頷いた。
漸く食事が部屋に運ばれる。
久々に見るご馳走の数々には心が躍った。
一気にガブリつく。
美味いなんてものじゃなかった!
と思う反面、明日からの食事を想像すると気が重くなった。
そう思うと逃げ出したしたくなる衝動にかられた。
親を襲って金を奪うか・・そんな事すればすぐ大騒ぎになって捕まるだろう・・
何とか隙を見て財布から金を抜けないか・・・
あくる朝、朝食を済ませるとコーチが二人迎えに来た。
「驚きました。まさかこんなに短期間で見違えるように変わるなんて。本当にありがとうございました。なんとお礼を言っていいのやら・・」
二人とも何度も深々と頭を下げながら別れて言った。
やはり逃げなくて正解だった。