面会から約半月後いよいよ奄美クルージングが迫ってきたある日。

朝の体操が終わり合宿所に付くと、全員を前にあるコーチが言う。

「今から名前を呼びあげる者は本日クルーザーの整備点検を行う事!」「〇〇!」

「はい!」

「○○!」

「はい!」

「○○!」

呼ばれた!

「はい!」

クルーザーの整備班に抜擢された。

しかも、呼ばれた十数名の中に、仲間が5人もいる。

チャンスがやってきた!

 

コーチは全員訓練に出ていて見張りは補助コーチのみ。

全員同じ気持、やる気は充分だ。

ヨットハーバーまでの歩く道中、ここでは一番先輩各のOさんが背中の方からささやく。

「いいか、振り向くなよ。状況をみて行けそうなら俺がGOを出す。そうしたらハーバー正面右手の建物の裏手で隠れて待つ。

長くは待てないので、5分経ったら消える。現場から離れる方法は各自で考える事。他のヤツにも伝えてくれ」

「はい」頷きもせ小さく答える。

「お前、知ってるか6000円の話。」
「はい、聞いたことはあります。」

「今から探すぞ。くれぐれも関係ない奴らには気付かれないようにな。」

もう2年くらいも前に卒業した元訓練生の話だ。

卒業間際に他の訓練生に

「実はな、面会の時に親の財布から6000円くすねたんだ。それをクルーザーに隠したんだ。もう卒業だし、今更言えないんでお前見つけたらやるよ。」

と言い残して卒業していったらしい。

それが何人かに伝わり、結局聞いた本人もとっくに卒業してるので、話が本当なのか?また本当だとしても、訓練でもクルーザーは使うのだし、今でもまだあるのか?誰かが持って行ってないのか?全く分からない状態だった。

しかも5隻ある船の内2隻のどちらかだとは言われているが、それも定かではないのだ。

 

現場に付くと、補助コーチSよりも早く、

「ヨシ、俺と○○はELV1、○○と○○はELV2、○○、○○は・・・」

一瞬で割り振りをするO先輩。

しかも、人の組み合わせや、サインが届きやすい作業の位置関係が絶妙だ。

 

例の2隻には、仲間以外はいない。

とはいうもののいつ誰が来るか分からない。外の作業を相方に見張りがてら任せキャビンの中を探し始める。

物が隠せそうなところは一通り見た。やはりないのか。

一応簡単に外せそうな所はドライバーで外しても見るがやはり無い。あまり時間もかけられないので止めようかと思ったその時だ、

「おい、あったみたいだぞ。」

どうやら隣の船を探していたOさんたちが見つけたらしい。

と、同時に決行のサインが出た!

 

Mが火事場で拾った1万円、そして今、見つかった6千円。

合計1万6千円の逃走資金を元に3度目の脱走を決行する事になった。