2回目の脱走以降は明確な理由があったので真面目に訓練にも勤しんだ。
日々の訓練は一人乗りのディンギーで行われる。
YAMAHAのシーホッパーというモデルをベースにセール(帆)を大きくし、「沈(ちん)」しやすくなっているのが特徴で風の強い日は直ぐ「沈」するよう、わざと作ってあるそうだ。
「沈」した船を起こせないでモタモタしていると、モーターボートに乗りコーチが近づき、頭を踏まれ海に押し込められたり、わざと沈させたりと嫌がらせを受ける。
なので出来るだけサッと起こしたいのだが、風が強かったりするとどうにも起こせない日がある。
そんなある風の強い日の訓練。
「沈」した船を起こそうと奮闘していると、ボートの音が近づく。
「おら!さっさと起こさんか」コーチAに怒鳴りつけられると同時に何かで顔を殴られた。
口の上のほうに激痛が走る。
唇が切れているようだが、出血が酷い。
それでも、必死に船を起こし訓練に戻るが、どうにも唇が痛い。
しかも血が止まらない。
訓練を終え浜に上がり仲間が顔を見ると
「うわー!どうしたんやその口!」
自分でも切れているのは解ったんだが、感覚が無くどうなっているのかは解らなかった。
合宿所に帰り鏡を見て驚いた。
真ん中より左1センチくらいの所で真っ二つに割れている。
「アハハ!お前、口割れとるがや!」殴ったコーチKが見て笑っていた。
どうやら、「あか汲み」で(ベイラーとも呼ばれる船底の水を汲みだすチリとりのような道具)叩かれ縁で唇が割れたようだ。
痛みは一週間以上続いた。
直ぐに出血するし、食事をとるのにも不自由したが、病院に等連れていかれる事は無かった。
割れた状態が治るのには一か月位は掛かったと思う。
只、治ったといっても右真ん中側の唇が下に下がっている状態でくっついてしまったので、1センチほど段差が出来た状態になってしまった。
毎朝、無残な自分の顔を見ながら顔を洗う日が続いた。