2度目の脱走から一か月位立った頃だったか・・・

合宿所の建物は元々は消防署のようだ。

国道から見ると後ろに長い建物の前側の3分の2くらいは、高くて、長い消防車が入っていたのであろう。車庫に当たる空洞の直ぐ上は20畳以上ある大広間で2階建てになっている。
その後ろに階段があり、更にその後ろは3階建てになっておりコーチの部屋や、押し入れを改造して作った独房がある。

国道を前に見ると、右脇は路地、左脇は庭になる。木造の古い建物である。
なので、普段訓令生のいる広間は2階と行っても高さは3階近い高さである。何度か飛び降りようかと思ったけど裸足で飛び降りるには危険すぎるし、勇気もなかった。

大広間のは道路側が2段の押し入れでここも寝床になる。階段に近い反対側はロフトのような中二階になっている。かなり広めのロフトで楽に10人以上は寝れるスペースがあったと思う。基本布団は無く全員寝袋で寝る。

 

その日もロフトで寝ていたが、まず匂いに異変を感じ目が覚めた。
焚火した時と同じ匂い、と同時に
「火事だ!火事だ!火事だー!」下から大声が聞こえる。
急いで寝袋を飛び出し、ロフトから飛び降りる。
「熱い!」階段側から煙が一気に襲ってくる。
煙が凄く熱いのである。
窓から飛び降りるしか避難経路はない。

道路側、庭側、躊躇することなく皆、ボンボン飛び降りる。
あれだけ恐れていたこの高さ、全く躊躇なく道路側に飛び降りることが出来た。
怪我があったかなかったかも気にすることなく、痛みすら覚えていない。


全員無事なのか・・・


「ヒイ~助けて~怖いよ~」
道路側の窓の前、飛び降りる事が出来ず立ち尽くす者がいる。
窓の中で泣き叫ぶのはシンナー中毒でここに来た2つ年上のYS。
「大丈夫だ!飛べ!」
「大丈夫だから」
全員で声を掛けるが、
「ダメ~無理~怖いよ~」
「皆で受け止めよう!」
自分も含め4人で輪になり、手を組む。
「YS!大丈夫だ!受け止めるから飛べ!」
「無理~!ダメ~!アツイ~!」
火がどんどん迫って来る。
「大丈夫だ!死ぬぞ!早く飛べ!」
YSは飛び、身体を無事受け止めた。
「おーい!お前ら全員無事か!駐車場側に集まれ!」

この時ばかりはコーチも人の子だった。

こんな騒ぎの中、逃げようと思えばみんな逃げれた筈だ。
なのに・・・・これが人の心なのか・・・
逃げなかった事への後悔は無かった。

それよりYSが無事で本当に良かったと、そう思えた。


建物は全焼、脱走者はなんとたった1名。


この日は近くの「K」旅館で急遽雑魚寝をさせて貰った。

この後起きる問題を知る由も無く・・・