禁煙請負人・豊前健介の煙草・麻薬・お酒の話 -2ページ目

覚せい剤の話

昨年・今年と芸能人の覚せい剤の所持事件が絶えませんでしたが、覚せい剤とは一体どのようなものなのでしょう?


一般に「覚せい剤」といった場合、メタンフェタミンと言う薬物を指す事が多く、ヒロポン(大日本住友製薬の商標名。)やスピード。スピードの頭文字からS・シャブなどとも呼ばれてますが、一番ポピュラーなのは「シャブ」でしょう。「シャブ」の由来は、「アンプルの水溶液を振るとシャブシャブという音がしたから」という説や、英語で「削る、薄くそぐ」を意味するshaveから来たという説。「覚せい剤の作用が骨までシャブる」から来たという説もありますが、はっきりとは分かっておりません。


またエフェドリン(気管支拡張鬱血除去薬)に類似した血管収縮作用があるために、静脈内に投与されると冷感を覚える事から「しゃぶい(寒い)」と言う語源からシャブという説もあります。 他にも自嘲的・もしくは密売者が使用者を蔑視してつけた表現と考えられ、関西の末端の密売現場では「シナモン」(「品物」の関西訛り)、警察など捜査機関では、ビニールの小袋に小分けされている事から(パケットの略で)「パケ」と呼ばれています。

また覚せい剤依存症者は「ポン中」「シャブ中」などと呼称されます。


脳内報酬契約物としても知られ、腹側被蓋野(哺乳類の脳における中脳の一領域)ら大脳皮質(大脳の表面に広がる神経細胞の灰白質の薄い層)と辺縁体(人間の脳で情動の表出・意欲・そして記憶や自律神経活動に関与している複数の構造物の総称)に投射するドーパミン作動性神経のシナプス前終末からのドーパミン放出を促進しながら再取り込みをブロックする事で、特に側座核内のA10神経付近にドーパミンの過剰な充溢を起こし、覚醒作用や快の気分を生じさせます。


副作用として血圧上昇・散瞳など交感神経刺激症状が出現し、発汗が活発になり、喉が異常に渇きます。

内臓の働きが不活発になり多くは便秘状態となります。性的気分は容易に増幅されるが、反面・男性の場合は薬効が強く作用している間は勃起不全(インポテンツ)となります。常同行為が見られ、不自然な筋肉の緊張・キョロキョロと落ち着きの無い動作を示す事が多く、更に(主に過剰摂取によってであるが)最悪、死亡する事もあります。食欲が低下し、過覚醒により不眠となり、これらは往々にして使用目的でもあるのです。

中脳辺縁系のドーパミン過活動は、総合失調症において推定されている幻聴の発生機序とほぼ同じであるため、覚醒剤使用により幻聴などの症状が生じる事があります。ごくまれですが長期連用の結果・覚醒剤後遺症として統合失調症と区別がつかないような、慢性の幻覚妄想状態や、意欲低下や引きこもりといった、統合失調症の陰性症状の様な症状を呈し、精神科への入院が必要となる場合もあります。


まれに、覚醒剤の使用を中断しているにも関わらず使用している時のような感覚が生じる事があり、これを専門用語で「フラッシュバック」と呼びます。フラッシュバックは使用直後に生じる場合から、使用を中断して数年を経て経験する場合まであり、様々な状況によるフラッシュバックには、厄介なものです。

静脈内への覚せい剤注射に伴う合併症として、注射針の共用によるC型肝炎やHIVへの感染・注射時の不衛生な操作による皮膚・血管の感染・炎症の他、最悪のケースとして敗血症などがあげられます。加熱吸引の場合には、角膜潰瘍(これが原因で失明するリスクが高くなります)や鼻腔内の炎症や鼻出血・肺水腫がみられます。


国によって覚せい剤の(犯罪としての)取扱は違い、日本国外では覚せい剤に関しては厳しく規制され、刑罰として死刑を科される国も多く、特に東南アジアは極刑化が顕著で、シンガポールでの不法製造や、マレーシアでの50㌘以上の覚せい剤所持では刑は死刑のみと極めて極刑で、タイにおいては譲渡目的での製造・密輸は死刑となり、譲渡・所持でも死刑・情状酌量であっても無期刑となる他、中国・韓国でも営利目的のケースでは最高刑が死刑です。欧米は、それほど厳しくないものの、イギリス・フランスが最高で無期懲役、アメリカが州毎に違い、最高で終身刑となる州もあります。

一方でメキシコでは2009年8月に少量の大麻・コカイン・覚せい剤の所持を合法化する法律が施行され、以前は覚醒剤所持が見つかっても、少量なら逮捕の判断は現場の警察官が判断していたため、賄賂の温床になっていました。


日本国内で違法に流通する覚せい剤は、国外の工場で製造され密輸されたものが多く、カナダ産の割合が年々増加しており、2003年の7%から2007年には66%にまで増え、このためUNODC(国際薬物犯罪事務所)は2008年9月、従来の北朝鮮や中国に代わりカナダが日本への覚せい剤供給元の首位になったと公表しました。

覚せい剤に限らず薬物犯罪の捜査は、買う側は勿論ですが、売る側の組織を摘発しない限り根絶はできません。そのため、税関でワザと通らせ(これを泳がせと言います)、組織全体を把握した時点で一網打尽に摘発を行います。


かつてCMでは「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」のキャッチコピーを覚えている人も多いと思います。それ位、覚せい剤は恐ろしい薬物です。軽い気持ちでやったものが、依存しやすいために警察の御縄にかかるケースも少なくなく、また覚せい剤事犯の再犯率は41.6㌫と窃盗罪(44.7㌫)に次いで刑法犯で2番目に多く、同じ罪名の犯罪を繰り返す傾向があります。また同じ罪名の再犯の期間が、身柄釈放から1年以内に28.1㌫、2年以内に49.8㌫が再び検挙されるなど短い傾向が見られ、再犯率が高く、その期間が短い理由としては、覚せい剤の依存作用が高い事に加え、依存に対する明確な治療が存在しない事、入手が極めて容易である事などが挙げられます。


依存に対する明確な治療法が存在しない事は、(僕も含めた)薬剤師や医師は、これについて、どう言う臨床試験を行い、薬物中毒者を無くすためにはどうすれば良いのかが今後の焦点です。

お酒の話2

僕が見ていて、心底気分が悪くなる行為は居酒屋とかの合コン・コンパなどでの「一気飲み」の強要。昨日も言ったとおり、お酒は「一種の毒」と言った僕ですが、一気飲みの行為はご存知のとおり、急性アルコール中毒を引き起こします。ヘタしたら死ぬ可能性だってあるのです。その辺を分かっていて、一気コールを強要しているのか?もしそうだとしたら、底なしのバカですね。また、こんな事で命を落とすほどみっともない事は無いです。

急性アルコール中毒になったら、当然救急車で病院に運ばれますが、治療法は見てて痛々しい。カテーテルと呼ばれる管を、陰茎の尿の出る所に無麻酔で挿入し尿を出させるのですが、あれは見てて痛々しいけど、やられる方も相等痛い代償ですよ。


だから僕は居酒屋が嫌いです。大抵の医療者は、「こう言う状況があるから、居酒屋が嫌いなんじゃないか?」と、僕の独断で思いますが。

お酒の話

飲酒後に体内でエタノールの中間代謝物として生成される「アセトアルデヒド」は、人体にとっては有害物質で時によっては悪酔いや二日酔いの原因となります。またアセトアルデヒドには発がん性が有り、飲酒によって膵臓がん・口腔がん・食道がん・咽頭がん・大腸がんなどの発症が非飲酒者より高くなり、そう考えてみると、お酒もあながち毒のようなものだと言えます。


アセトアルデヒド脱水素酵素 (ALDH)は、517個のアミノ酸から構成されるたんぱく質で、このうち487番目のアミノ酸を決める塩基配列の違いにより、3つの遺伝子多型に分かれ、グアニンを2つ持っているGGタイプ(遺伝子対が両方ともGタイプ:ホモ)と、グアニンの1つがアデニンに変化したAGタイプ(遺伝子対のうち片方がAタイプで他方がGタイプ:ヘテロ)2つともアデニンになったAAタイプの3つに分かれます。


GGタイプのアセトアルデヒド脱水素酵素を1に対し、AGタイプは約1/16の代謝能力しかなく、AAタイプにいたっては代謝能力を失っています。AGの活性が1/16であるのは、アセトアルデヒド脱水素酵素が4量体を形成し、Aタイプが優性に活性を無力化してしまうために起こってしまうものです。


ある学者はALDHのひとつ「ALDH2」を作る遺伝子によって酒の強さが体質的に異なるとされる事に注目して、全都道府県の5255人を対象に、酒に強いとされる遺伝子の型NN型を持つ人の割合を調査し順位付けました。

その結果としてNN型の人は中部・近畿・北陸で少なく、東西に向かうにつれて増加し、九州と東北で多くなる傾向が見られました。都道府県別では秋田県が最多で77㌫、鹿児島県と岩手県が71㌫ででこれに続き、最小は三重県の40㌫ですが、三重県はお酒の消費量も全国一少ない県ならば、喫煙者の数も一番少ない県です。


三重県で有名な松坂牛はビールを飲ませて飼育をしますが、これは元々飼い主が「酒も煙草もやれないから、牛にせめてもの贅沢を」と言うのが始まりで、以後この牛の肉がとてつもない高評価を受けて、三重県の牛飼い達はこの方法を取り入れたと言う逸話があります。


ALDHの遺伝子多型は生まれつきの体質であるものの、人種によってその出現率は異なり、AGタイプ(酒に弱いタイプ)・AAタイプ(酒が飲めないタイプ)は日本人などの「モンゴロイド」にのみ存在し、それぞれ約45㌫・約5㌫存在します。 これに対し白人・黒人オーストラリア原住民等は全てGGタイプ(酒に強いタイプ)です。つまり、日本人の2人に1人は「下戸」と思ってもいいでしょう。


GGタイプは酒に強いと思われていますが、実際は「アルコールが体内で代謝された後に生じる、毒性の強いアセトアルデヒドを速やかに分解できるだけ」であって、つまり摂取したアルコールの濃度に応じて、実際には脳が麻痺しており、アルコールによる本来の酔いに変わりはありません。


このGGタイプがアルコール依存症になるリスクは、AGタイプの6倍と言われており、事実、日本のアルコール依存症患者の9割弱はこのGGタイプです。さらにGGタイプしか存在しない白人・黒人社会の欧米では、アルコール依存症が深刻な社会問題となっており、考え方によっては煙草よりも性質の悪いのが「お酒」だと僕は思います。