皆の者、息災か。
加藤清正である。


此度は豊臣秀吉様、徳川家康様、躍舞、なつと共に城に出陣して参った。
雨が降りそうな天候であったが、幸い午前午後とも演舞を披露する事が出来実に嬉しく思う。
明日からはまた天候も回復するそうじゃ。
年末に向け、今年の総仕上げに皆も名古屋城に登城して参るのじゃ。



さてさて、この儂の日記帳。
これまではたまにその日の気分に合わせた儂の好みの和歌を紹介して参ったが、これよりはより皆にわかりやすく和歌の魅力を伝えられる事を試みて参ろうと思う。
その方策とは即ち、百人一首じゃ。
これまで皆が寺子屋などで触れて参った和歌を一首ずつ儂の視点で紹介し、和歌は小難しくないんじゃよと。
気軽に楽しめるものなんじゃよと伝えたい。
と言うものの儂も四百年前の死ぬ間際に勉学した以来。
皆と共に楽しみつつ学んで参りたいと思う。
よしなに。



ちゅうわけで、此度紹介する和歌はこれじゃ。




秋の田の 仮庵の庵の 苫をあらみ
わが衣手は 露にぬれつつ」
(あきのたの かりほのいおの とまをあらみ
わがころもでは つゆにぬれつつ)


言わずと知れた、天智天皇が詠みし一首。
皆には中大兄皇子と言った方が分かりやすいかもしれぬな。
中臣鎌足と共に蘇我入鹿を誅殺した「大化の改新」を致した皇子じゃ。
中臣鎌足はこの功を賞され藤原の姓を賜った。
この後大いに躍進することとなる藤原氏の祖である。


さてこの一首。
訳するとこのような意味になろうかの。
「秋の田の隅にある粗末な小屋に泊まっているが、滴り落ちてくる夜露に私の袖は濡れていくばかりだ」
つまり、農作業をする民の一夜を詠んだ歌なのじゃ。
民の生活の苦しさ、辛さと共に余情的な、思索的な印象も受ける素晴らしい出来と言えような。
と、同時に良い意味でただ民の生活の一幕を描写しただけの歌!
なんも難しいことはない!!
なんならこの時代にも野宿した折にありえる、ありふれた情景であろう。


天皇陛下という立場で、このような民の気持ちを編み込んだ歌を詠む。
これはまさしく慈悲深き天智天皇の人柄を偲ばせる歌とも言える。
実際に天智天皇が詠んだ歌かどうかというのはまた別の話。
その人物がどのような人柄であったのか。
それを後世の者が仮託したのも和歌の面白さの一つ。

というのも実はこの歌。
元々は万葉集の詠み人知らずの歌を元としておる。
それを、民に寄り添う天智天皇の名を借り、より叙情的に伝わるように味付けをなされたものなんじゃな。
いやはや、和歌とはまこと奥深いものよ。
此度の歌はここまで。
楽しんでくれたかな。
次回もまた天皇陛下が詠まれた歌。
楽しみに待っておってくれ。


加藤清正