前田又左衛門利家也。
名古屋城へ登城せし皆々よ。大儀ぞ。
斬った張ったの人生を持て余した儂は、最後の最後迄、勝った負けたの人生に拘った〔こだわった〕。
其の一つが十露盤〔そろばん〕で在る。
遺言には、自ら十露盤で弾き出した額面を書き記し、儂亡き後に争いが起こらぬ様、正しく〔まさしく〕命懸けで我が遺産の整理を行った事は世間に余り知られては居らぬ事。
其の甲斐が在ってか、我が前田家は途絶えずに現世にも続く家と成った。
儂は人生に勝ったのだと蘇った今、嬉しく思う。
昨日より始まりし名古屋城当日ツアーと銘打った案内は、雨為れど人集い賑わいを見せた。
参陣せし皆よ。忝ない〔かたじけない〕。
案内を致す際、儂は頭の中に在る十露盤を弾く。
数多に広がる話の種を、喋り乍〔ながら〕此れか此れかと引っ張り紡ぎて、客人の顔を見る。
うむ。女子には此の話が良かろう。
小さき童には此の話。
熟練者には未だ聞かぬ話をと此れ又、十露盤を弾く。
案内の終いに名古屋城天守を見上げる皆の顔が、名古屋城に好感を抱いて居れば儂の勝ち。
昨日は先ず先ずの勝戦。
未だ未だ、勝ちを掴むべく。
積み上げて参りしもので戦うでは無く、積み上げて参りしものと戦う。
左様。
名古屋城案内も又、儂から申せば戦いで在る。
最後の最後迄、勝った負けたの人生に拘って参った儂の事。
最後の最後迄、己が自身と戦い続けたいと思う。
さぁ、本日は名古屋城演武〔パフォーマンス〕。
午前十一時よりと、午後二時半よりの二回。
我等が戦姿。観に参れ。
名古屋おもてなし武将隊 一番槍
前田又左衛門利家