前田又左衛門利家也。



我が主、織田信長様は今に残る万物の創始者でも在られる。

其の一つが道路標識。

信長様の命により、一里塚に植えられた目印の榎〔えのき〕は現世の案内標識に当たる。



さぁ、振り返れば八ヶ岳。

墨国〔メキシコ〕道中記。続続三日目。

墨国の道を歩めば、日ノ本では見掛けぬ道路標識に目が止まる。

安全帯〔シートベルト〕着用、飲酒を禁ずる標識。

墨国は鉄籠〔自動車〕社会。

初陣を果たせし若者は無理を致しても鉄籠を購入致す。

武士は喰わねど腹楊子。

喰うに困れど、見栄を張り生きる姿は我等が時代にも通ずる処が在る。

現世に生きる日ノ本の民が身形〔みなり〕に気を遣うのと同じ事。

見栄の張り処は国により違う事と知る。


密な時を過ごした墨国にて、我等は幾度にも渡る戦を繰り広げた。

何も其れは〔それは〕、演武〔パフォーマンス〕を致すだけに非ず〔あらず〕。

我等が名古屋おもてなし武将隊の絵葉書等も墨国の民には珍品で在ろう。

此方を土産に墨国の民と交流を図る。



小さき童が鋭鋭応〔えいえいおう〕と、小さき拳を我等に向けた。

我等が演武を観、先程から繰り返して居るとな。

嬉しきものよ。

徳川殿も、普段見せぬ程のふやけた顔で笑って居る。


本日、二度目の演武。

あぷろうそす。

儂が号令を発すれば、耳が痛く成る程の拍手で出迎えてくれる。

終いに、徳川殿は伴天連語〔英語〕と墨国の言葉を織り交ぜ、皆に言葉を託した。


墨国の民は強さが在る。

墨国に参る迄は陽気な民と聞き及びしものの、いざ演武を披露致し我等が声を発すれば、素直に耳を傾ける。

若者や小さき童迄もが、静か成る時の中で一心に我が言葉を受け止める。

此れは墨国の民の強さで在ると。


儂、又左衛門も墨国の民の優しさには痛み入る思いで在ったが、此れを〔これを〕強さと表現致す徳川殿に割れんばかりの拍手が起こった。


先の震災で苦しき時を過ごした皆も、此の強さが在れば必ずや乗り越えられる。

儂はそう信じて居るぞ。

我等、日ノ本より参りし武士〔もののふ〕も同じ空の下、皆の安寧を願うて居る。


暫く〔しばらく〕、拍手と歓声が鳴り止む事は無かった。


さぁ、別れの時。

陣所の番人に最後の別れを告げると相変わらずのだんまりで在ったが、儂の背に手を回し固く抱き合った。

ちと目から汗が出そうに成る。

儂も老いたな。


皆が我等に礼を申してくれたが、礼を申すは我等の方じゃ。

此度、出逢いし全ての民よ。

並びに、我等が煩わぬ様にと戦場を整えし陣営の皆々。

此度の機会を与えてくれた事、誠に感謝致す。


母国、日ノ本に帰り着き味噌汁を一息で飲み干すと大きな溜息が出た。

又、新たに息を吸い込むと何だか少し心が大きく成った気が致す。

曾て〔かつて〕、戦を終え我が妻まつの作りし豆味噌の味噌汁を飲んだ四百年前を思い出した。




完。






CBC主催 武士語2018

熱烈鍛練中。

儂も墨国で得た想いを乗せて、此の大戦に挑む。



我等が生きた武士の生きた証を確と〔しかと〕刮目せよ。



名古屋おもてなし武将隊 一番槍
前田又左衛門利家