前田又左衛門利家也。



ふつつかな そんな挨拶 要らぬ故 頬染めし梅 そっと開いて



美しくも可憐に咲く梅も、一つ、二つと花開いて参った。

もう、そないな季節か。

秘密と嘘を繰り返し人は大人に成るならば、幾つに為れど儂の心は童の侭よ。

嗚呼、早う大人に成りたし。


名古屋城へ登城せし皆々、大儀。

客人より嬉しき言葉を献上される。


利家様の御家臣の皆様の中でも、村井長頼〔むらいながより〕様を一番に好いております。



此の名を知らぬ無垢為る者よ。

我が童歌にて今宵は眠れ。



嘗て、儂が未だ青葉の頃。

傍らには常に此奴〔こやつ〕の姿が在った。

長篠の戦いにて命を救われた事も在ったな。

互いの懐より銭を取り出し合わせ、我等は銭無し貧乏じゃと笑い合った事も、早う出世致して まつ様に綺麗な袖の一つでも買って差し上げて下されと申す其方〔そち〕の言葉も、常に我が心に灯る灯火で在った。

秀吉から姓を賜る事在れど、儂は自らの家臣に姓を贈る、名を贈る事を致さぬが心情で在った。

誰しもが、今の名に誇りを持って居ろう。

其れ故にこその我が想いで在る。

然し乍〔しかしながら〕、其方だけは例外。

儂を誰よりも慕い、常に苦楽を共に分かち合いし其方には、前田又左衛門利家。我が名の一字を与え、又兵衛〔またべえ〕の名を贈った。

又兵衛や。

儂が死しても尚、前田家を守る盾と成りし其方には感謝が尽きぬぞ。

歳を重ねると直ぐ目が滲みよる。

空気が乾燥致すな。

又兵衛や。

其方〔そちら〕は大事無いか。

此方〔こちら〕は相も変わらず毎日吠えて居るぞ。

又兵衛。其方〔そち〕と酒でも酌み交わし、現世の話を聞かせたいのぅ。

我が自慢のなごやめしを酒の肴に致せば、朝迄尽きぬ話と成ろうて。

覚悟致せよ。



嗚呼。



逢いたいのぅ。



又兵衛。



我が殿、前田又左衛門利家は、其の名の通り前だけ見て居れば良いので御座る。

感傷に浸る等、らしく有りませぬぞ。



儂にも負けぬ暑苦しき又兵衛の声が聞こえた気が致した。







さぁ、明日も戦じゃ。



名古屋おもてなし武将隊 一番槍
前田又左衛門利家