今日のいい話 - マグロ漁師の心の調え方 -  | 武士が語る 名言・格言

今日のいい話 - マグロ漁師の心の調え方 - 

今日のいい話は『致知』2011年9月号より、マグロ漁師の山崎 倉殿の
談話でござる。

(インタビュアー:釣れる時期、釣れない時期、 ご自身の心をどのように調
整されていますか?)

 この前、どうしても一週間だけ密着取材をしたいといって、テレビ局が船に
入りました。六日経って釣れたのは小ぶりなマグロ一本。彼らは

「もっと大きなものを撮りたいから、あと一週間延長したい」

 と言い出した。俺は、

「一週間という約束で引き受けたんだから、ダメなものはダメだ。しかも、
“一週間”にはあと一日ある。明日精いっぱいやったら、それが結果だから」

と断りました。映像が撮れなかったら困るんでしょう、若いスタッフの一人が、

「山崎さん、餌を変えたらどうですか?他の船はイナダとか使って釣っている
みたいですよ」

と言ってきた。

 何、もう一回言ってみろ、と。俺はあんたたちに給料をもらってやっている
んでないよ。これでなければやらないと突っぱねました。

 そうして七日目の昼前かな、八十キロを超えたマグロが釣れました。前のよ
りも大きかったから、もういいだろうと思って、

「もう映像は撮れただろうし、船を下りてもいいよ。俺はまだやるけれど」と
聞いたら、「いや、まだ乗っていく」と。

 そうして日も暮れかかった頃、ポーンと餌を投げたら、すぐに食いついてき
たマグロがいて、引き上げたら百キロを超えていました。

「いやぁ、山崎さんはすごいね。“明日結果を出す”と言って本当に出した」

ってディレクターが驚いていたけど、俺が出したのではなくて、マグロが出し
てくれたんです。テレビの人は釣れたから結果が出たって言うけれど、たとえ
釣れなくてもそれが結果。七月から十二月まで漁に出て、一匹も釣れなくても、
 それが俺の六か月の勝負の結果です。

 だからどんな一日でも「これで満足」と思うようにしています。大きなマグ
ロが上がろうが、まったく釣れなかろうが、せっかく沖に出たのに時化(し
け)で一時間しか漁ができなくても、「沖に出ただけで満足」。

 そうやって一日の漁を満足して終えることが、予測できないこの仕事を続け
ていくための心の調え方かと思います。