「ドーン、ガギガギ、ガギー」、それはそれは、大きな音でした。 その瞬間、とうとう事故をやってしまったと思いました。そして、「引退」の2文字が頭をよぎりました。私も高齢者です。認知能力の低下を自覚したり、それが原因の事故を起こしたりしたら、直ぐに引退すると、常日頃、考えていました。
 
先週の火曜日のことです。その日は午後番でした。台風1号の影響で、雨風が半端ない夜でした。そんな中、ある住宅地の中を走行中、突然、「ドーン、ガギガギ、ガギー」と、何か物に当たって、引きずっているような大きな音がしました。悪天候なので、スピードを落とし、前方は注意してよく見ていたはずでした。ですから、その時は、何が起きたのか、全くわかりませんでした。
 
すぐに、バスを左に寄せて停車させました。急ブレーキを使ったわけでないので、乗車していた5人のお客さんは、全員無事でした。大きな音だったので、お客さんは事故が起きたと思ったはずです。私は、状況を確認してくることをお客さんに伝えると、懐中電灯を持って急いでバスを降りました。そのとき心臓は、ドッキドッキでした。バスを降りると、原因がすぐにわかりました。前バンパーの左下に、瓶ビールのケースが挟まっていたのです。強風で飛ばされてきたんでしょうね。運転席からは、死角だったようで、風で飛ばされてきたビールケースが、バスに当たった瞬間は見えませんでした。こんなこともあるんだと、大変、驚きました。さいわいバスは何ともありませんでした。
 
ビールケースを見た瞬間、ホッとして、「引退」の2文字も、すぐに消えました。(笑)
 
バスの中に戻ると、お客さんの中には、降りる準備をしている方もいました。原因と状況を説明すると、皆さんの顔の表情が一斉に変わりました。何事もなく、ほんとうに良かったと思いました。運行を再開させ、遅れながらもバス停に着くと、何人かのお客さんが、雨でビショビショの私に、ねぎらいや、励ましの言葉をかけてくれました。ありがたいことです。
 
 
あれだけの音だったにもかかわらず、バンパーも、ビールケースもなんともなかったことが不思議…。