○月✕日 晴れ

 

 バスのお客さんに、いつも恵比須顔で嬉しそうに笑っている、知的障害者の方がいます。Wさん、35歳です。(降車の際、毎回、障害者手帳を提示するので、名前も生年月日も覚えてしまいます。)

 

 Wさんは、バスを降りるとき、障害者手帳を開き、運転手の顔まで近づけて見せてくれます。私たちが、「見ました!!」と言うまで、手帳を下ろしません。そして、半額の料金を運賃箱の中に入れます。料金を入れ終わると、運賃投入口をのぞき込み、コンベアーで流れていく硬貨を確認します。そのあと、少しどもりながら、「運転手さん、ありがとうございました。」と言ってくれます。

 

 Wさんは、平日は毎朝、同じバスの同じ席に座っています。朝の通勤時間帯は、お客さんでいっぱいです。大きなルームミラーに映るお客さんの顔は、皆さん押し黙ったままの、疲れた顔、眠たそうな顔だらけです。そのほか、考え深げな顔、怒ったような顔、苦虫つぶしたような顔…。今から、仕事に行くんですからね、ニコニコしている人はいません。バスの中は、重苦しい雰囲気です。バス運転手の私たちは、そんな彼らを護送車で、仕事場まで護送しているようなものです。そんな中に、ただ一人、嬉しそうに笑っているWさんの顔があります。恵比須顔と閻魔顔とまでは言いませんが、対照的です。( ´艸`)

 

 いつも、私は、お客さんの中にWさんの顔を見つけると、思わずニッコリとしてしまいます。Wさんは、気持ちを和らげ、やさしく、明るくしてくれます。Wさんの表情が伝染して、つい笑顔になってしまうのです。心理学では、そういうのをミラーリング効果というそうです。 

 

 Wさんは、「みなさん!!笑顔を忘れてますよ。」と、言ってくれているような気がします。私も、疲れていたり、嫌な事があったとき、つい表情が固くなっていることもあります。バス運転手は、サービス業です。笑顔が大切です。Wさんは、知的障害者とはいえ、そんな大切なことを気づかせてくれる先生です。

 

 

左側、中扉のすぐ後ろが、Wさんの指定席です。