小さな町工場を営んでいたKさん。
工場を閉鎖する時に、
最後まで残った職人の再就職先を斡旋するために、
同業の工場を訪ね歩きました。
初めに行った工場の社長は、
「行き先がなければ引き受けてやってもよい」
と言ってくれました。
しかし、恩着せがましい言葉がひっかかり、
〈ここで働いて、果たして職人は幸せだろうか〉
と断ってしまいました。
その後、顔見知り程度の社長のもとに決まりました。
小さな工場でしたが、
職人の腕を見込んで
「ぜひ来てほしい」と言ってくれた誠意に打たれたのです。
その工場は木造の古い建物でしたが、
一年後に全面改装しました。
知らせを受けて訪ねてみると、
社長から、
「彼が入社してくれたお陰で将来に希望ができ、
思い切って改装できた」と感謝されました。
新しい工事の機械に向かっていた職人は、
Kさんを見つけると、
新品の測定具を持った手を上げて笑いかけました。
元気な姿を見て、Kさんはホッとしました。
十年後、職人は、その会社の工場長になったのです。
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