「・・・・・・ファイト前だってのに

物取りに行かせるかフツー?

つーかこんな近場ならテメーで行けっての。」

 

「申し訳ございまセン」

 

「お前に謝られても仕方ねえだろ。

とっとと取って戻るぞ。」

 

ウィィィン

 

「お・・・・・・」

 

「蛇じゃねえか。いらっしゃい。」

 

「・・・・・・」

 

「あれぇ?知らねえ奴がいるなぁ。」

 

「はぁ!?」

 

「悪いねえ、俺ここの店員知ってたつもりだったけどよ。

俺が知ってんのはお前に似てるけど

痛い眼帯つけてた奴しか知らなくてよぉ。

 

「ありゃ鎖龍にキャラ付けで渡されたんだよ!!」

 

「それを数年間キッチリ付けてたからねー。」

 

「挙句渡した本人は

そのことを完全に忘れてたからな。」

 

「あの野郎、俺の眼帯見ながら

『なんでお前眼帯付けてんの?』だからな!!」

 

「まぁそういう奴だ。」

 

「色々忘れっぽいからね。」

 

「まぁそれはどうでもいいけどよ。

つーかお前ら、エプロン着けるようになったんだな。」

 

「ああ。去年のグリモワール杯が終わって

鎖龍が優勝しただろ。それの副産物だ。

これから店ではこれを着る。」

 

「グリモワール杯みたいな大会用に

別の服も今用意してくれてるんだって。」

 

「エプロンになんかワッペン付けてんな。なんだそりゃ。」

 

「あぁ、これは鎖龍が考えたデザイン。

昔の看板に使ってた三日月とコウモリだ。

だがそれだとただの夜景みたいになるから

三日月を赤色にしたんだと。」

 

「赤い月は月食の様子。

でも皆既月食は満月にしか起きないでしょ。

だから三日月のまま月食が起こるように

通常ありえないことが起こる店ってことで

こういうデザインにしたらしいよ。」

 

「そういうところこだわるよな、あいつ。」

 

「みんな同じカラーリングだと面白くねえからと

エプロンの色はばらけてるんだ。」

 

「ワッペンの色合いと被るから

俺のエプロンだけ黄色になっちまったけどな。」

 

「いいじゃねえか、似合ってる。」

 

「お前が褒めてくれるのは珍しいな。」

 

「キレンジャーみたいでカッコいいねえオイ。

カレーでも奢ってやろうか?」

 

「それ馬鹿にしてる例えだよな!!」

 

「諦めろ。そういう人だ。」

 

「っていうか蛇さんも服変えたんだね。」

 

「ああ。」

 

「なんか、らしくねえ色合いだよな。

インナーとはいえ蛇さんがオレンジなんて。」

 

「これでも色味は落としたんだ。

明るい色合いだと派手過ぎて俺に似合わなくなる。」

 

「なんかモチーフあるの?」

 

「あぁ、これは・」

 

「多分あれだ、スクライドの君島だ。」

 

チッ

 

「スクライドはカッコいいアニメだが

普段着に流用できそうなデザインで

一番しっくりくるのが君島だったんだろ。」

 

カタカタ

 

「・・・・・・あぁ、確かにそれっぽいな。」

 

「ところで蛇さん、どしたの。

鎖龍と一緒にファイトに参加してなかったっけ?」

 

「あぁそうだった。どっかのバカのせいで

話がそれちまったぜ。

なんか忘れ物したから取りに行けとよ。

わざわざこいつまで付いてくるくらいだし

なんかよほどのものでも忘れたんじゃねえか。」

 

「・・・・・・」

 

「忘れ物?こっちには特に連絡ねえけど。

何忘れたとか聞いてねえの?」

 

「はぁ?行けば分かるとしか聞いてねえぞ。

てっきりお前らが用意してるもんだと。」

 

「鎖龍様からメッセージを受信しまシタ」

 

「は・・・・・・?」

 

『ぶっちゃけただの新衣装お披露目会。』

 

「メッセージは以上デス」

 

「んなくだらねえことのために

わざわざ店にまで向かわせたのかあいつは。」

 

「そんなことないよ蛇さん。」

 

「は?」

 

フーン

「このままじゃ尺が短いからね。

きっと何か別のことが起きるよ。」

 

「お前・・・・・・どや顔したかっただけだろ。」

 

「フウキもいいの?今のところ

普通の顔とあきれ顔しか出してないよ!

このままじゃ苦労人ポジみたいになるよ!」

 

「なってんだよとっくに!」

 

「つっても別の事って何が・・・・・・」

 

ウィィィン

 

「おー、届いたみたいだな。」

 

「・・・・・・結局お前も来るんじゃねえか。」

 

「そりゃまぁ、オーナーですし。」

 

「つーか、お前は前と大して変わらねえんだな。」

 

「なんだかんだこの着流しが好きでね。

それに店の管理はしてるが

厳密に言えば店舗スタッフじゃないんだ。

エプロンをつける必要もないだろう。」

 

「で、鎖龍が来たってことは

何か起こるってことだよね。」

 

フーン

「ね!!」

 

「え?いや、今日はただのお披露目だし

もうここでこの回終わるけど?」

 

「・・・・・・」

 

「嘘でしょ」

 

「だってまだ勝負続いてるし

ただ新衣装見せに来ただけだよ。」

 

「じゃあさっさと戻れよ・・・・・・」

 

「そうするさ。さぁ行こうぜ蛇さん。」

 

「結局俺は無駄足だったじゃねえか。」

 

「蛇!勝てよ!」

 

「言われずともだバーカ。」

 

「・・・・・・あの」

 

「ん?」

 

「誰だよ、お前。」

 

「亜・紀・だ・よ!!!!!」

 

「・・・・・・やれやれだ。」