惑星クレイをはじめ、周辺の宇宙の環境を守るため勤しみつつ、ノヴァグラップルのような格闘競技でクレイの子供たちから高い支持を得ている国家スターゲート。
子供から大人までを盛り上げる格闘集団・ノヴァグラップラー、
宇宙の秩序を守る絶対たる正義の集団・ディメンジョンポリス、
かつての侵略者、現在のクレイを救った者達・リンクジョーカー、
この3つの勢力は他国にも名前を轟かしており、スターゲートを襲撃しようと企む国家もこの勢力を警戒して実行に踏み切ることができない状態である。しかし、スターゲートにはもう1つ、未知の勢力が存在する。それは惑星クレイにはもともといなかった者達。人々は彼らのような存在をエトランジェと呼んだ。この物語はエトランジェと呼ばれる者達が滞在する空間で起きた彼らの悲痛の叫びを書き記したものである。
スターゲート内エトランジェ専用エントランス
スターゲート内にはエトランジェと呼ばれる者達に滞在スペースが設けられており、大半の者はそこで暮らす。しかし長らく同じ空間で呆けているにも限界があり、他の星の者達との交流や談笑を図るべく、フリースペースであるエントランスに足を運ぶ。いつしかこの場はエトランジェたちの交友スペースとしてスターゲートの管理者たちからも認識されていった。今日もまた、このスペースに様々な星からの来訪者が足を運ぶ。
「・・・・・・親の愛に泣く男、スパイダーマンッ!!」
赤と青で全身を埋め尽くしたような男・スパイダーマンは誰に叫んでいるか分からないような位置でポーズをとりながら叫んだ。長らくクレイに滞在している彼のこの奇怪な行動はエントランスの管理者からすればもうすでに見慣れた光景である。クレイの猛者たちとも戦えるであろう力を有する彼だが、この奇怪な行動のせいで寄り付く者がいないため、いざ戦闘になってしまった場合、孤軍奮闘する羽目になって戦いには破れるだろう、という理論すらたてられてしまっている。
しかし今日は珍しく、そんなスパイダーマンに声をかける者がいた。
「おぉ、スパイダーマン。久しぶりであります。」
スパイダーマンに声をかけたのは惑星クレイの危機に幾度となく携わった英雄ブラスター・ブレード・・・・・・の兵装をしたカエルっぽい生き物。ガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長 ケロロ軍曹である。地球という惑星から自国であるケロン星に一時的に帰還するはずが、宇宙船の故障と不時着で惑星クレイにやってきた。クレイに滞在している最中、神聖国家の英雄ブラスター・ブレードの活躍を映像で見たため彼に一時的に憧れを抱き、兵装を真似て『ブラスター・ケロロ』と名乗っている。なお自身が乗っていた宇宙船はディメンジョンポリスの特殊チームのおかげで直ったが本部への言い訳がまとまらないためクレイに滞在中とのことである。
「ふむ、ケロロ軍曹。いや、ブラスター・ケロロだったか。君もこの地に居座ってかなりの時が経ったのではないか?」
「本当はペコポンに帰って夏美殿の料理が食べたいでありますが、本部への報告とかみんなへの言い訳とか考えると帰りたくないであります。まぁぶっちゃけここの施設の方が好きかってできるうえにみんなやさしいしぃ。」
「ねぇ、知ってる?ここでは君のことを、『穀潰しの居候蛙』って呼んでるんだよ。」
「ゲロッ!?」
自慢げに自分の待遇を語るケロロに思い切り毒を吐いたのは同じくブラスター・ブレードの兵装を真似た小さな生物・豆しば。ケロロと同じようにブラスター・ブレードの活躍を見て兵装を真似て自身を『ブラスター・豆しば』と名乗っている。地球という惑星のどこかに生息している豆しばはその星の民たちに豆知識と呼ばれる予備知識を与える生き物として人々から愛されている、といった報告書が上がるほど豆知識をその身に蓄えている。しかし、この生物から発せられる豆知識は着実に人を煽ったり落胆させたりと、聞いて気分の良い豆知識を教えてくれることは滅多にない、というのがエトランジェ専用エントランスのスタッフの見解である。
「吾輩と同じ兵装、そして吾輩と同じ緑のボディ!お前なんか吾輩のパクリであります!どうせお前も、というかここに住まう以上みんなが居候の穀潰しであります!!」
「そこは否定しないが・・・・・・陰口をたたかれる原因は多分お前が出される料理に文句つけるからだろ。」
「ゲロッ!?スパイダーマンも豆しばの味方ぁ?それはないであります!」
「いや、しかし滞在させてもらっている以上は出る飯に文句を言うというのもどうかと思うのだが・・・・・・」
「というか、吾輩は滞在して長いのにこの惑星では無名に近い扱いをされていると噂で聞いたことがあるであります!」
「それは仕方あるまい、もともと我らはこの惑星の民ではないのだから。この惑星で戦い抜くには個人の力に秀でているだけでは意味がない。個人の力に加えて、我らに力を貸してくれる仲間が必要になる。戦いの最中にチャンスをくれるような、そんな仲間がな。だが我ら異邦者にそのような仲間は存在しない。」
「それは分かっているであります・・・・・・しかし、せっかくこの惑星に来た以上はこの惑星の中でちょっとだけでも有名になって帰りたいのであります!」
「・・・・・・この惑星をネタに星に帰るつもりか?」
「ゲロッ!?」
図星であることが丸わかりの反応にスパイダーマンも呆れたようにため息をついた。それだけ彼が星に帰りたい、ということを汲み取れば理解できなくもない話ではあるが。
「あまり大きな事は起こすなよ。我々は侵略者ではないのだから。」
「ゲロ?吾輩はもとより侵略者でありますが?」
「・・・・・・リンクジョーカーとかいう奴らの方がよほど侵略者らしさに満ちていたのだがな。まぁ、リンクジョーカーとやらが押し寄せてきた時もスターゲートの面々は自らの領地を奪われつつも我らの居住区を必死になって守ってくれた。その恩義を忘れるわけにもいかんだろう。」
「でもここに攻め込まれたことって吾輩の記憶にはないでありますがねぇ。」
リンクジョーカー襲来の真実についてはケロロの方が正しく、侵略者リンクジョーカーたちにとって、惑星クレイの力を借りれぬ異邦者・エトランジェはほとんど眼中になかった。しかし異邦者を捕えればそこからまた新たな惑星侵略のめどが立つ可能性がある、ということから小規模の襲撃作戦は立てていたようだが、特に襲撃しなくてもクレイ全土の掌握を完了した後についでに狩ればいいと放置されていたというのが真実である。そのためスターゲート所属の者達がリンクジョーカー襲来の際にエトランジェの居住区に防衛線を張ったのは便宜上であり、実際は逃げ延びてきた者達の言い訳に等しいのである。もっとも、リンクジョーカー襲来の際も何もしなかった(できなかった)エトランジェの者達にこの真相を知る由もないのだが。
「しかし、ここに住んでもう6年近くの月日が経つというのに何もしていない。それどころか新参者には『誰すかそいつ』的な目で見られるのにも我慢ならんのであります!!」
「妙なことは企まないでくれたまえよ。私の恰好が黒いうちは好きにはさせないからね。」
「む、誰でありますか?」
ケロロに声をかけたのはエトランジェたちの統括をしている、とうわさされている謎の男・キッダーニ男爵である。黒いマント、黒い仮面、黒いシルクハットと完全に黒一色のような恰好をした奇妙な男であるが、謎のリーダーシップをもっており、彼を慕うエトランジェの者は非常に多い。またスターゲートの一部の権力者にも彼の名は轟いており、スターゲート外でも彼の名を知る者もいるという謎に包まれた男である。
「KRRさん、楽しくやろうぜ。」
「いやだから誰でありますか?というかペコポン人?」
キッダーニと共に現れたこの男は伝説のスター・DAIGO。彼もキッダーニと同じくあらゆる国家に名をとどろかせており、神聖国家の王に自国へ招待されたこともある。しかし彼は惑星クレイからすでに離れており、たまに思い出したかのように遊びに来る。噂では異世界で相棒と呼べるモンスターを探している、とのことだが真相は不明。
「どの世界でも活躍したい、という若者の気持ちは分からないこともないのだがね。しかし、この世の中には触れてはならない、関わってはならない世界というものがあるのだよ。帝国最強の戦士ドラゴニック・オーバーロードと異世界の戦士である君たちが対峙したらミスマッチだろう。だから我らに力は与えられないんだ。分かるね?」
あらゆることを察しているかのように語るキッダーニは、エトランジェに所属する者達に惑星クレイでの未来はないと言っているようにも聞こえた。しかし、ケロロの欲望がそんな大人の一言で止まるはずもなく、ケロロは言葉になってないような声で駄々をこね続けた。その時である。
『緊急事態、緊急事態!リンクジョーカーの侵略者・星輝兵の残党がエントランスに侵入した模様。至急退避せよ、至急退避せよ!』
緊急放送とほぼ同時に赤黒いリングを身にまとったドラゴンはエントンランスの扉をぶち破って侵入した。明らかに異常な生命体であり、話し合いが有用とは思えないほど獰猛な生物であることは一目見て分かる。
「あ、あのドラゴンは一体・・・・・・」
「あれは確か、メビウスブレス・ドラゴンというドラゴンだ。呪縛と呼ばれる力を駆使する。逃げるんだ。我らでは勝ち目がない。」
「あのドラゴンを討ち取れば、吾輩の活躍はスターゲートに広まるであります!」
「待ちたまえケロロ君!」
キッダーニの制止もむなしく、ケロロはドラゴンに向かって飛びかかった。不用意に飛び上がり、不意打ちが成功したかのように上がったその口角はまさに、特撮でやられる悪役のそれであった。
「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
不用意に飛び上がったケロロの体をドラゴンの赤黒い吐息は逃すことなく、ケロロはその一撃で綺麗にダメージを食らってしまった。
「ぐぬぅ・・・・・・やるでありますなぁ!」
「ゴアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
冷や汗をダラダラとかくケロロを無視してドラゴンは赤黒い球体を後方に投げた。その球体に豆しばが当たってしまった。
「ねぇ、知ってる?この球体にぶつかると、呪縛されてしまうんだよ。」
「言ってる場合か!?」
スパイダーマンのツッコミもむなしく、豆しばは赤黒い球体の中に閉じ込められてしまった。リンクジョーカーの得意とする力・呪縛である。
「ケロロ君!君がダメージを受けるたびにメビウスブレスは呪縛の球体を放出するんだ!!だからもう戦うのはやめて逃げ」
「行くであります!!!!」
キッダーニの声はケロロに届くことはなく、再びケロロはドラゴンに立ち向かった。狂気に包まれたような笑いから剣を縦にまっすぐもってとびかかる姿はまさに、やられかけの悪役の必死の抵抗そのものであった。当然ドラゴンはそんな不用意の姿を逃すことはなかった。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ゲロォッッッッ!!!!?」
見事にドラゴンの攻撃をクリーンヒットしてしまった。そして再びドラゴンは呪縛を仕掛ける球体をケロロの後方に投げた。
「ぐああああああああああああああああああ!!!!」
「キッダーニ男爵!?」
キッダーニ男爵に球体は命中し、ブラスター・豆しばに続きキッダーニ男爵まで呪縛の餌食となってしまった。
「もうやめるんだケロロ!俺達の力ではどうにもならん!!」
「あ、諦めたくないであります・・・・・・吾輩は活躍する、輝くであります!!!!だから誰か、オラに力を分けてくれえええええええ!!!」
版権など知ったことではないケロロの嘆願はエントランスにむなしくこだました。ドラゴンはケロロに再び、容赦ない攻撃を仕掛けようとした・・・・・・その時である。
「ごろっ♪」
黄色の球体がケロロの周りに集まってきた。バチバチと音を立て、それはまさに電気そのもののようであった。
「お、お前たちは・・・・・・いったい何者でありますか・・・・・・?」
「ごろっ♪」
ケロロの問いに答えることなく、黄色の球体はケロロの体の中に入り込んだ。するとケロロの体は金色に輝き、目に見えるほどの稲妻を帯びていた。
「こ、これは・・・・・・!!」
「あ、危ない!ケロローーーーー!!!!!」
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ザキュッ・・・・・・
切り裂く音は辺りにこだまする・・・・・・そして次の瞬間、ドラゴンの体は両断されていた。大きな叫びを上げながら、ドラゴンは倒れていった。
「・・・・・・ケロロ、お前がやったのか?」
「吾輩にもよく分からないであります。こいつらが吾輩に力をくれたような、そんな気がするであります・・・・・・」
「ふぅ、やれやれだ。一時はどうなるかと思ったよケロロ君。」
ドラゴンが死に絶え、呪縛から解放されたキッダーニ男爵は軽く息をつきながらケロロに近づいた。
「その黄色い球体は『ゴロロ』と呼ばれる精霊だよ。『クレイエレメンタル』と呼ばれる未知の種族。彼らは味方をする者を選ばない。神聖国家だろうが、帝国だろうが、侵略者だろうが、我らのような異邦者だろうがね。謎の多い生き物だよ。」
「つまり、このクレイエレメンタル達を使えば吾輩もこの星で活躍できると言うことでありますか!!よし、そうとわかれば早速ゴロロ達を連れて、帝国に乗り込むであります!!」
「あ・・・・・・待ちたまえケロロ君。」
「ケロロ、いっきま~~す!!!!」
「・・・・・・彼らは味方をする者を選ばないから必ずしも君の助けになるとは限らない、と言いたかったのだがね。まぁいい。彼らによって我らも戦いに赴く未来はある。スパイダーマン、君と共に戦う日が来ることを楽しみにするとしよう。」
「この星での戦いというのも、またおもしろそうだ。」
エトランジェ・・・・・・彼らが惑星クレイ全土を駆け巡り戦う日はいずれ・・・・・・来るような来ないような。それらのカギを握るのは何者をも助け、何者をも滅ぼす気まぐれな一族・クレイエレメンタルにゆだねられているといっても、過言ではない。