377 えっさほっさ | 鰤の部屋

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数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

 昔々の事だった。
 城下町を目指す旅人はその道中で必ず通る村があった。
 旅人がその村を通ると、村人達は皆口々に
「えっさほっさ、えっさほっさ」
 と言い、畑仕事にせいを出しているので、旅人の誰もがここの村人は働き者ばかりなんだなぁと感心して通り過ぎていきました。
 ある時、この村に一人のお医者様が訪れた。
「こんにちは、この村に宿はありますかな?」
「えっさほっさ、えっさほっさ」
 お医者様は返事が返ってこなかったので、畑仕事に勤しんでいて聞こえていないのだと思った。他に誰か人はいないかと遠くを見ると、こちらへやって来る村人が居て、これは良かったとお医者様はまた同じ事を訊ねた。
「えっさほっさ、えっさほっさ」
 立ち止まり、確かに自分の顔を見ているのに、その村人は「えっさほっさ」と言うだけで他に何も話してくれません。
 変だ変だと思いながらも先を行き、数名に同じ事を尋ねました。
 ですがやはりどの人も「えっさほっさ」と言うばかり。
 流石におかしいと思い、これは何かと考え始めるお医者様は、一つの答えを導き出しました。
「これはえっさ発作じゃ!!」
 えっさ発作、それは発作が起こると途端に「えっさほっさ」としか言えない珍妙奇妙な病だった。一説には風土病とも言われ、病になった者でも土地を離れれば途端に発作が起きなくなる。また、発作中は「えっさほっさ」としか言えないが、病になっている者達には発作が起こっていない状態と同じ状態で意思の疎通が出来るため、誰が病になっているのかも分からないという非常に厄介な病だった。

 因みに病に気付いたお医者様が尽力し、村は救われ、村人達の掛け声は「えっさほいさ」へと変わった。
 この件以降、些細な変化なため、また村が発作を起こしたと騒がれ、年に何回かこの村の名前は国中を駆け巡るようになってしまった。 


終わり



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