256 ノンオイルボトル | 鰤の部屋

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数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

 この物語の主人公及川竜也(おいかわりゅうや)は思春期真っ只中の少年。彼には一つの悩みがあった。
 それはお肌。にきび! 脂!!
 彼のお肌はそんじょそこらに居る同世代なんか目じゃないほどに脂が出る! 溢れ出る!! ちょっと摘まんでみようものならじんわりと。強く摘まめばピュピュッと出てくるお脂様。
 そんなんだから彼はオイリーなんてあだ名でいつしか呼ばれるようになってしまった。ああ、無念、くやしや、晴らせよ少年。
 彼はその体質と自身の名前が奇妙に絶妙にマッチしたあだ名を疎ましく思っていた。
 だからそれを見つけた時には陸に揚げられた魚のように、暴れているんじゃないかというほどに喜んだ。
 通信販売で待つ事五日、彼の手に届いたのはノンオイルボトルと書かれた商品。
「へへ、これでオイリーなんておさらばさっささ」
 頬に刷り込むだけで後は簡単オッケーな使用法がなんとも嬉しいお年頃。効き目が出る時を待つ事二時間。
 彼が鏡の前に立つと、驚き仰天、驚天動地。いつもなら脂でサンシャインの光がお顔に宿っているのに、二時間経ってもヌルヌルもテカテカもしていない。
「ひゃっほう、こりゃすげぇや」
 昭和の青春少年漫画のように片手を天に掲げて飛び上がる彼。
 次の日、学校へ行くとその変化にクラスの人間は言葉を失った。
 そして集まってきたのは、肌に悩みを持つ言わば悩みメイト達。彼は快く、自分のお肌の秘密を教えてあげた。いやはやこの時は本当に凄かった。お肌に不安がある悩みメイト達は皆ノンオイルボトルを使っていたのだから。

 そして時が流れて三十年。彼は同窓会に呼ばれて、嬉懐かし、軽やかな足取りで会場へ向かった。
 久々に会う同級生。悩みを共有した悩みメイト達。皆どうしているかと扉を開けると、パッとしないほっそりとした中年男女がほとんどを占めていた。
 このほとんどを占めていたメンバーの中には及川竜也本人も含まれていた。
 そしてメンバーには共通点があった。皆、悩みメイトだった事。ノンオイルボトルを使っていた人々だった。
 メンバーは口々に言っていた。
「当時が一番脂が乗っていた」と。
 どうやらノンオイルボトルは、人生の脂さえも取ってしまっていたらしい。


終わり



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