255 眼鏡っ子 | 鰤の部屋

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数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

 岩清水君のクラスに眼鏡をかけた女の子がやってきた。
 知らない顔が並ぶ中、眼鏡の奥の瞳は不安でいっぱい。揺れている。女の子はそんなに活発な性格では無いみたいで、クラスの女子もその子も距離を詰められずにいた。
 岩清水君はそんな女の子を見てはやきもきするようになっていた。
 ある日の事、岩清水君は女の子が打ち解けられればとちょっかいを出すようになった。
 ちょっかいと言っても、「ちょっとこれ見せろよー」と強引に女の子の筆記用具を取っては見たり、ちょちょっと自分の腕に落書きをしたりするとすぐに物は返すという程度。
 女の子は岩清水君のそのいつも突然の行動にあたふたするばかりで、強く否定する事も取り返そうともしなかった。
 いつしか岩清水君は、どうにかして女の子の色々な表情を見たいと、目的が変わっていった。
 知らず知らずの内に女の子の事が好きになり、嫌がる事をしてしまう。幼い子がついついしてしまう行動を、岩清水君も取っていた。
 そしてとうとうその日、岩清水君は一線を越えてしまった。
「めーがねかーして」
 たまたま放課後に一人残っていた女の子を見つけて、あっという間に眼鏡を取ってしまう岩清水君。
「あっ、駄目っ」
 初めての大きな声。岩清水君は驚いて、女の子の顔を見たまま固まってしまった。もしかしたら初めて見る素顔に、見惚れていたのかもしれない。
 でも、女の子の方はそんな甘酸っぱい感情とは無縁だった。
「早く、早く眼鏡返してよっ」
 何をそこまで慌てる必要があるのかと不思議がる岩清水君。彼女の慌てる意味を知るのに、そんなに時間はかからなかった。
 女の子の目から植物の根っこがそろそろと伸びてきたのだ。そして伸び続ける根っこは、岩清水君へと伸びて締め始める。
「な、なにこれっ」
 もがく岩清水君。もがいている間に眼鏡を落とし、女の子は急いで眼鏡を拾ってかけた。すると根っこはまたそろそろと女の子の目へと戻っていった。
「ごめん、ごめんね。私の目、変なの。眼鏡をかけてないと根っこが伸びちゃうから。お願い、誰にも言わないで。お願いね」
 タタッと逃げるように走って教室を出た女の子。
 一人残された岩清水君は、まるで夢を見ていたような気分だった。
「何だ、何だろう……」
 今までに無い感情に戸惑う岩清水君。
 彼は気付いてしまったのだ、自分の感情に。
 これ以降、日常では女の子と友達として交流を深めた。その一方で放課後になると岩清水君は女の子を呼び出すようになった。女の子が来ると、岩清水君は決まって眼鏡を奪った。
 そう、彼は目覚めたのだ。齢十一歳にして。


終わり



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