ハザマランド -8ページ目

つぶやき 2013 夏

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 背向けのサークル。中央には一輪の白詰草。円かの人々は背中で語る。花は黙して聴いている。

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空の春から地の春へ。


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 爪を切り 庭に撒いたら 三日月が 子らよ子らよと 夜を濡らした

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紫の雨


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 目が冴えてしまった。久しぶりに或る旅人の日記を観ようか。足長豚に乗りたいぜ。

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「鏡台越しに唇を舐めずる絵がいいぞ」
 何度捲っても挿絵集にその絵はなかった。ぼやく私に悪友は両目を閉じてにやついている。あぁそれはなと、勢いよく顔を寄せて瞼を上げた。
 二つの暗い穴の向こう。女が紅を引いている。
「見初めたんだ」
 遠くと近くの唇が薄く開いて、まったく同じに笑った。

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 歯の奥で蝶が飛んでいる。噛まれず、飲まれず、唾液に濡れて飛んでいる。十年経った蝶である。羽ばたき続け脳へと昇る。本に変わって読まれ続ける。

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ヤマギ


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 横になれないとわかっているものの寝心地良さそうだなと思ってしまう。薫風で波打つ鯉のぼりの腹の中。

 そんなのどかな夢想の隣でうすら寒い夢想も浮かぶ。
 あの丸い口から性別のわからぬ子の白い手が出て楽しそうに降っている。
「振り返すなよ。掴みに来るぞ」
 誰にともなくつぶやいて、口の隅で嗤ってみせる。

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 献本して貰った「みちのく怪談コンテスト傑作選2010」。挿してある写真もいいな。

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 紫陽花は婉曲な光がよく似合う。夜風は雨のにほいがした。


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 神路通を歩いた。月夜見尊が豊受大神のもとへ通う伊勢の小路。月の神は夜に石垣の一つに杖を当て白馬に変えるそうだ。人々は夜道で神に会わないように路の中を避けて端を歩く。銀の小路は線を引いたようにまっすぐで蹄の音を聴いた気がした。

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 窓を開けて湿った夜気を吸う。
 仰いだ夜空は二藍で、木々や家々の影は濡羽色。天より地が冥い。雨受け鴉は羽を閉じて目も閉じる。
 緩やかに息を吐いた。ぬるい夜に呼気は色づかずに透けている。

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 陰で開く花もある。


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 今夜は上弦の月。二つ名を持つ神に参って、もう半月が経つ。

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天蓋


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 アメノワ。雨の輪。雫の衝き開く一瞬を数えないまま眺める。

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 小雨に濡れた燕の背中は鮮やかな鉄紺で、腹はたいそう白かった。表裏二色の三日月が翻る。空を滑り、虫を刈る。低く、速く、弧を描く。長い雨の止む頃に、月は昇っていくだろう。
 暑い夏がやって来る。


みちのく怪談

 ふるさと怪談トークライブに寄せられたチャリティを運用して『みちのく怪談コンテスト傑作編2010』が刊行されました。
 一双の名義で一遍「新たな民話」が載っています。
 取り扱い書店はこちら
 見かけたら手にとってみてください。


 

 

つぶやき 2013 春

 今年のつぶやきは春夏秋冬(三ヶ月ずつ)で載せたいと思います。

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 高い音が台所に響いた。振り返ると割れていた。独身の頃から使っている小皿。当たった左肘を押さえて座り込んだ。
「しゃくら」
 見上げるとベビーチェアの中の娘は欠片を指していた。
「しゃくら」
 昨日の散歩。一緒に浴びた桜吹雪が甦る。
 私は笑って、散った花びらを大切に片付けた。

0331()
 飛び交う二匹の紋白蝶を眺めて詩人は書いた。
 冬と春が別れを惜しんでいるよ。
 詩人は私の産まれる前に死んだ人。
 私の血の中で生きる人。
 ひいおじいちゃん。
 私は今日、貴方の手帳を読みました。

0331()
 春の庭で差し出した掌に桜の花片が三枚乗った。払おうとすると、か細い声に止められた。
「そのまま繋ご」
 慣れない車椅子の上で笑った妹はもういない。
 私は重たい咳をする。

0329(日)
 仮面というには有機で、顔というには無機な、青野明彦作品を生で見たい。

03月25日(土)
 枝先の盛り。風に巻かれて人を抱く。桜の花は二度開く。

03
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 爛れと漫ろ。絡まり爛漫。春来たる。

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 カゴメ。



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 春風が寒さを払い、春雨が外皮を洗った。季節は運ばれ花が咲く。微笑みに陰りは散り散り消えていく。

03
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 岩井俊二/菅野よう子の「花は咲く」を聴きながら山科理絵の「強さを持って」を観る。三年目初日。

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 阿吽の囁き。ひらめく帳。佐保姫の吐息。今宵のタイムラインは春のお告げ。ソプラノで流れていった。

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 今夜は闇に目を凝らす。

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 その影は甘い香りを漂わせていた。落とすのは首だけではないのだなと冬空に開く椿を見上げた。

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 如月の桜。寒桜。


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 ギヤマンの雨音が弾ける。砕けたガラスが輝きながら落ちてくる。
 瞼を開くと雫は消えた。
 雨はグラスに収まって、揺れる気泡で喉越しを誘う。
 サイダーって美味しいよねって話です。

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 ナズナを見ると祖父の家にあった小さな太鼓を思い出す。ぺんぺん草とでんでん太鼓。くるくる鳴らして春を待つ。

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 コーヒーに注いだミルクがカップの底で膨らむ一瞬。

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 大寒の薄い空。風が激しく吹いている。上がりに上がった鳥凧が、糸を断ち切り飛び立った。

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 日本大正村へ行きたひ。

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 よよよ、と夢二の画が啜り泣く。ふふふ、と華宵の画は薄笑い。ほう、とまさをの画は吐息をついて、ふぅ、と虹児の画は口を窄める。甘く気怠い抒情の夜は朝をさらに遠ざけた。

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 西日に染まった境内は柑子色の和みで満たされていた。神前で頭を垂れて、柏手を高く打つ。冷風が灌ぐように吹き抜けた。

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 遅出の月がびろうどの空を跨ぐ新年二日目。しじまの朝月夜。



風花

 風の強い日でありました。線路を渡って駅舎を吹き抜けるほどでした。
 薄い空の日でした。
 雲は速く、小雪が後を追うようでした。
 風花です。
 ちらちら降りて、風に乗ります。空に浮いて舞うのです。
 寒い日でありました。
 温かな日でもありました。
 冬と春の交じり合う秘色【ひそく】の日でありました。


立春掌編

 四歳のユウトはおしゃべりである。
 何にでも話しかける。
 友達の子らはもちろん、大人にも、犬にも、猫にも、虫にも、電信柱にも話しかけまくる。
 保育園の帰り道。
 母親と繋いでいた手を離して、
ユウトは椿に話しかけた。
「あんな~。もうちょっとしたらな~。こっちにもな~。春っ、くるんだってっ!」


 
 


 
 ユウトの言葉は人間以外にもよく届く。

年、明けてら

 いつかの深夜の散歩道。


 引き続き励みます。

てのひら怪談

 果瘤《くだこぶ》

 小指の棺

 真昼の廃校
 
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つぶやき 2012

1223(日)
 鈍色の午後三時。怪談をしたためる。

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 川霧に飲まれた舟で揺蕩う。仄暗い影の丹頂鶴が一声鳴いて飛び立った。

 深夜二時。バターライスを思い出す。ある意味怪談。新米こわい。

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 冬の頼りない空は嫌いじゃない。淡い日差しが、雲を通して緩やかに届いた。

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 乾いた棚田で空と向き合う。吹き抜ける風は削ぐほどに冷たい。雲の縁が白光した。

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 淹れたてのコーヒーを注いだマグカップに窓から昇る朝日が差した。湯気の揺らぎが光を纏う。無音の曲が流れ出す。

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 木枯らしが舞い上げた葉に光が射して輪舞曲(ロンド)になった。金色に乾いた葉は散り散りに、青い空はどこまで透いている。

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 深夜0308分。映画版『セイジ』を見終わる。神様は……

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 流れる流れる言葉の川で跳ねる魚の音を聴く。姿はまだ見ていない。

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 もぎたての柿は日の光を受けて温かった。温もりを回しながら果物ナイフを入れる。一本皮の出来上がり。丸ごとかぶりつく。甘い。美味い。木のぼりしたかいあった。

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 紫煙が昇って月になる。

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 月明かりで作る影絵はどことなく艶やかだ。狐が特にいい。

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 夜雲がよく見える。隠れた名月が顔を出してはよく笑う。

09
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 彼岸で華が燃えている。

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22()
 仄暗い秋雨。一縷に繋いだら幽し世界へ届くだろうか。

09
15()
 日が短くなった。月が長くなった。明日は晦。耳澄ます夜。

09
11()
 秋の夕立ち。水煙がつめたく香る。林の手前で枯れ葉が三枚落ちた。

09
01()
 蒼い月と生きた夜の鈴。秋浸る。

08
15()
 正午のサイレンがいつもより澄んでいる。長く聴こえる。今日は、六十七度目の終戦日。

 日差しが白い。青空が高い。けれども吹き抜ける風でさほど暑くない。油蝉が遠くで鳴いている。
 お盆が終わる。

08
13()
 二階の窓から忍び足。屋根に寝転ぶ。星は綺麗なのだと思い出した。

08
03()
 風鈴がうたた寝を誘う。

04
11()
 淡い花片が一枚、夜に降りて来た。隣に櫻はない。風もない。これは夢だと暗闇の中で瞼を閉じた。
 目が覚めた。
 掌を静かに開くそんな夜。

04
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 櫻守りの大将が言った。
「こいつらは月に向かって咲く」

04
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 春の嵐が吹き荒れる。桜花が舞った。青の舞台はどこまでも高く広い。

03
27()
 透き通る赤銅色。美味しい紅茶。

03
25()
 雲の走る昼下がり。
 一番風が吹いている。空の限りに鳴いている。冬よ行けと叫んでいる。
 私は髪をたなびかせ、青い空を仰ぎ見た。
「春だ」

03
23()
 花曇りの午後。浮遊する薄闇を剥がしたら桜の蕾は開くのだろうか。

03
11()
 2012年3月11日。盛りを終えた白梅を温い雨が濡らしている。一年は短かったのか、長かったのか。雨脚は細く、糸のように胸を縫う。

02
12()
 橙めいた黄色の月が西へと沈む。
 満ちていないのに月は濃く、白い星にまで色が移っている。
 自販機で買ったコーラはどこまでも冷たい。

01
25()
 夜の住宅街を歩いていると、白い裸馬が道の角を曲がるのが見えた。
 しなやかな後ろ脚が隠れるのに合わせて蹄が一つ鳴る。
 凍えの朝が降りて来た。


つぶやき 2011

 2010年07月29日に転載保存したつぶやき文。
 その後も細々と続けているので、再びマシな一部を記事に変換。
 まずは2011年ぶんを上げて、大晦日にでも2012年ぶんをあげます。


12
08()
 鈍い光に見据えられている。蛙のような眼差しは重たく私を離さない。
「動きなよ」
 痩せた男が小さく言った。
「動けません」
 絞った声で答えると、男は口の片隅で嗤った。

12
06()
 つかの間のぬるい夜。月が海に浸っている。揺蕩う柔脆。宙に昇って戻るまで、微睡みながら見届ける。

12
02()
「かなしいね。かなしいね」
 絵本の結末で泣いた幼子はそのまま眠りについた。
 寝顔にかかった前髪を小指でずらしてあげる。
 窓の外の雨が雪へと変わり音が沈んだ。
 朝になったらホットケーキを焼こう。
「おいしいね。おいしいね」
 うたた寝の中で笑い声を聴いた気がした。

10
11()
 曇りの朝。裏山の冷たいせせらぎで手を洗う。
 霧らう薄闇の中でアオスジアゲハがはためいた。
 曲がり飛ぶ青帯は幽寂で、亡き人の声なき笑顔を思わせた。

9
30()
 夜に密度はあるのか。

09
27()
 夜が長く文章と音楽がよく沁みる。秋だ。

09
09()
 十五夜まで三日。一遍の小説を読み込む。彼岸の花はまだ咲かない。

08
16()
 赤とんぼの羽に夕日が透けた。煌めいた。

08
14()
 夜空が閃き唸る。宵っ張りの雷獣は尾だけを見せて駆け巡る。

08
03()
 
吹き込む風でレースカーテンが孕む。流れる雲の向こうの空は溺れるほど青い。

08
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 一輪、一瞬。今宵も夜空が花畑。

04
29()
 ねむいねむーい昼下がり。雲のない青空を、竹竿から脱した緋鯉が泳ぐ夢を見た。爛々とした瞳と真昼の月が同じ白さで輝いていた。

04
28()
 大気がすこぶる澄んでいる。春風の尻尾まで見えてきそうな卯月末。

04
27()
 今日もどこかで狐の嫁入り。

04
23()
 小針が夜の頂きから落ちてくる。細く短い春の雨。

04
20()
 眩しい西日の上空でひこうき雲がクロスした。今夜は星がよく見えそうだ。

04
10()
 桜並木の一車線道路。前を走る車が落ちた花びらを巻き上げた。くるくる踊って、輪になって、小さな桃色竜に変わった。

04
07()
 ざぁっと風が桜を舞わせた。わぁっと子らが笑った。

03
25()
 あぁ、桜が咲いている。日なたの風が吹いてくる。遠くの北まで春巡れ。

03
14()
 大地震から三日が過ぎた。
「なにができる?」が広がっている。

03
08()
 三日月の下で石橋を渡る。川面の一部が黄色く揺れた。


コウヨウ

 コウヨウと聞くと、散る寸前のモミジを連想しますが、いつになく景色を焼く夕日も想います。


















 秋ですね。