ぶらり旅S

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戦後すぐの生まれ。灌漑、水資源、農業、発展途上国への技術協力などを中心に、大学で研究、教育をしてきて、現役を退きました。研究の周辺で、これまで経験したこと、考えたことを、今考えていることも含めて書いてみたい。

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流域治水の目標と手段
 
流域治水という用語は、2020年に国土交通省が、「流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方です」としてうちだしたものです。これは、それまで、治水は国土交通省およびその関連部局が取り扱う専任事項であったのを、関係するあらゆる人たちと一緒に進めようという宣言であったから、それは、治水上の大変革であると同時に、日本の治水にとって極めて望ましい考えであると思います。 
 
しかし、この流域治水という言葉を、初めて公的に示したのは、2014年、滋賀県流域治水条例でした。これは、当時の嘉田由紀子滋賀県知事(現、参議院議員)の強い政策によるものでありました。(2012年に、言葉としては見られる。) 
 
この二つの流域治水には、似た点もあるが、大きな違いがあります。 
 
滋賀県条例では、「どのような洪水にあっても、①人命が失われることを避け(最優先)、➁生活再建が困難となる被害を避けることを目的として、自助・共助・公助が一対となって、川の中の対策に加えて外の対策を総合的に進めていく治水」と定義しました。      
 
以上から分かるように、二つの流域治水における基本的な違いとは、滋賀県条例では、この治水が何を目標とするのかが示されているのに対して、国土交通省の流域治水では、どのような手法・手続きで治水を進めるかが述べられているだけで、その目標が明確には示されていないのです。 
 
治水政策の最も基本になるのは、もちろん目的の設定です。滋賀県条例は、その一つの例であるが、国の流域治水においても、是非、目標の設定を柱とした、治水体系の構築を図ってもらいたいものです。 
 
参考文献 

 
佐藤政良: 
大水害は防げるか 国河川:県河川:水田の関係から考える 
耕 (152) 2022年 
 
佐藤 政良: 
流域治水における農地の位置と役割 
水文・水資源学会誌 2022 

流域治水の目標と手段
 
流域治水という用語は、2020年に国土交通省が、「流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方です」としてうちだしたものです。これは、それまで、治水は国土交通省およびその関連部局が取り扱う専任事項であったのを、関係するあらゆる人たちと一緒に進めようという宣言であったから、それは、治水上の大変革であると同時に、日本の治水にとって極めて望ましい考えであると思います。 
 
しかし、この流域治水という言葉を、初めて公的に示したのは、2014年、滋賀県流域治水条例でした。これは、当時の嘉田由紀子滋賀県知事(現、参議院議員)の強い政策によるものでありました。(2012年に、言葉としては見られる。) 
 
この二つの流域治水には、似た点もあるが、大きな違いがあります。 
 
滋賀県条例では、「どのような洪水にあっても、①人命が失われることを避け(最優先)、➁生活再建が困難となる被害を避けることを目的として、自助・共助・公助が一対となって、川の中の対策に加えて外の対策を総合的に進めていく治水」と定義しました。 
 
以上から分かるように、二つの流域治水における基本的な違いとは、滋賀県条例では、この治水が何を目標とするのかが示されているのに対して、国土交通省の流域治水では、どのような手法・手続きで治水を進めるかが述べられているだけで、その目標が明確には示されていないのです。 
 
治水政策の最も基本になるのは、もちろん目的の設定です。滋賀県条例は、その一つの例であるが、国の流域治水においても、是非、目標の設定を柱とした、治水体系の構築を図ってもらいたいものです。 
 
参考文献 

 
佐藤政良: 
大水害は防げるか 国河川:県河川:水田の関係から考える 
耕 (152) 2022年 
 
佐藤 政良: 
流域治水における農地の位置と役割 
水文・水資源学会誌 2022 

私は、こ​のたび、​流域の治水に関して、「大水害は防げるか 国河川・県河川・水田の関係から考える」という​論説を執筆、出版させていただきました(「耕」 第152号)。

 本論説の目的は、日本の大水害を、どうしたらできる限り回避・抑制することができるかです。特に、発生する大洪水をどのように流域のなかで処理すべきかを考えました。水害を防ぐ方法は、ただ大洪水から逃げるだけではありません。地球温暖化による異常気象は深刻ですが、それも、結局は、流域に降った大雨をどのように管理するかが課題になります。

 河川やダムを大きくすれば流域が安全になるわけではありません。扱い方によってはかえって危険なことも起こります。河川整備事業は、同じ大きさの雨が降った時、洪水をより大きなものに増大させるからです。

 そのようなことを論じましたので、関心をお持ちの方には、是非本論をお読みいただき、日本の治水についての理解が深まり、また幅広いものになることを願っております。

 

 私は、いくつかの私案を提起しておりますが、そこでの態度は次の通りです。  

 1)大洪水対処主義:中小洪水への対策の結果、本当に重要な大洪水の対処に失敗することがないようにすること 

  2)豪雨による洪水の流出と抑制、そして破堤に伴う被害を考えること  

 3)洪水処理は、現行の治水制度の枠組みや取組みにとらわれない こと 

   

 このように考えたのは、上述したように、現行の河川整備事業を推進するだけでは、決して大水害を回避することができないからです。確かに、河川整備事業は、100年ないし200年超過確率といった大洪水を最終目標にしていますが、現状の整備水準は30年から50年確率程度と低いものもあります。それらの事業が完成するまでには、今後さらに100年程もかかるのではないかと思われます。その間、流域内の排水改良は進み、洪水は増大します。  

 一方、豪雨の発生は容赦なく、大洪水による越流破堤によって大水害を発生させる可能性が高いのです。このような状態を放置することは許されません。堤防が危険になったなら、むしろ、流域内に洪水を分散、貯留し、堤防を破壊させないようにする必要があるのです。堤防の破壊さえ回避できれば、大水害が抑えられます。

 それには、流域の多くの人の協力、協働が必要です。  

 以上が、この論説を書いた背景です。

 

なお、この論説本体の入手は、 researchmap の私の業績リストページ(そのMISL)からできます。

 事情があり、ややこしくて申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

  ネット上で、単純に researchmap と検索し、私の名前を入力し、MISL(その他の業績)を選んで頂ければOKです。

 

佐藤政良 

筑波大学名誉教授

 私は、昨年1月、脳腫瘍が見つかり、その除去手術を受けました。術後には、抗がん剤及び放射線照射の治療のほか、自分自身の遺伝子を使ったワクチン治療も受けましたが、1年が経過した今月、脳腫瘍の再発が確認されてしまいました。再手術が必要です。大変に残念ですが、現実を受け入れざるを得ません。

 昨年、初回の手術によって、(私の場合)視野と視力に欠損障害が発生しました。私は、再手術がうまくいくことを信じておりますが、その場合でも、さらなる強い障害が起きることは避けられないと思います。今後、皆様との間で、文字、文章を用いての交流において、タイピングや自己表現がうまくいかないことを懸念しております。

 皆様には、あらかじめお知らせして、よろしく御寛容下さることをお願い申し上げます。

 

 お世話、お付き合い下さっている皆様に感謝をて

    佐藤政良

 流域治水に関する私の講演(2022年6月25日)で使用した資料を公開します。

 使用したパワーポイントファイル(PDF)です。

 日本の水害をなくため、多くの議論が活発になされることを期待して。

 (satoh.masayoshi@gmail.com)

 

 

 

農業農村工学会農業農村整備政策研究部会(WEB)

令和4年度春期研究会(2022年6月25日)

 

講演者  佐藤政良(筑波大学名誉教授)

演 題  治水政策の歴史的転換

      ―流域治水の枠組みと農業農村の政策選択― 

 

目 次

はじめに

1.流域治水とは

 「流域治水」への道筋

  流域治水への転換が持つ意味

2.近年の水害の状況を河川整備から見る

 河川整備の仕組み:「河川整備基本方針」と「河川整備計画」

 鬼怒川、小貝川、那珂川の整備計画の現状と水害

 気候変動と河川整備の関係(国交省の見解)

3.基本高水流量の歴史的増大とその構造

 利根川と小貝川の基本高水の変遷

 基本高水はどのように増大したか―国河川と県河川の関係―

 中小河川整備は農地と密接な関係

 国-県の河川整備計画のギャップ

 県河川の洪水算定の方法と特徴

4.洪水低減における農地の立ち位置

 全国と鬼怒川、小貝川流域の土地利用面積割2018年

 宅地と比較した農地の特徴

 流域治水の中でどう解決するか

5.農地部門の貢献可能性

5.1 遊水地の建設

 洪水処理計画における農地(遊水地)

 小貝川・母子島の事例

5.2 農地による洪水流出抑制

 元々備わっている水田の洪水抑制機能

   小貝川県河川(中通川)豪雨時の水田地帯の流出抑制状況の観測事例について

 農地の特性を考慮した排水

 水田流出抑制の技術

 流出抑制技術の適用

5.3 緊急時の洪水受け入れ

 2015年 鬼怒川常総市水害における河川水位の変化について

 農地部門 何故犠牲的サービスをする必要があるのか

 農地の政策選択肢1:現行方式の延長

 農地の政策選択肢2:積極的な役割

最後に

 

(この資料の整理、公開に当たっては、西島信一さんの援助をいただきました。御礼を申し上げます。)