京都橘に興味を持ってから他の有力校のことも目に入るようになった。所謂、有力校には必ずカリスマ顧問がいて熱血指導により部を引っ張っていくというイメージを受けた。それに対して橘は生徒の自主性が強調され顧問の存在が薄い珍しい高校との印象を持っていた。

 

そのうちに顧問が変わったという事を知ったが、所謂、カリスマ顧問達は少しお年を召されてきた方が多いのに対して、新しい顧問は若くしかもハンサムという事で単純に反感を持った(単なる老人の嫉妬)。その後色々と知るうちにこの先生はカリスマではなく普通の真面目な先生のように思えてきた。

 

 

コロナ過の2020年秋にラジオ番組に部長と出演した時、ゲスト出演の大阪市音の方に聞きたいことはありますか?と振られて

「子供たちにお勧めの一曲はなんですか?」

と予想外の質問をした。音楽教師としてこれまでやってきているのに今更・・・・・

返事は

「一つというと難しいですがアンドレリードの作品は良いです」

との答えだった。

 

2021年の定期演奏会でこれが取り入れられているのを知って評価を変えた。カリスマ顧問ともなれば自分なりの哲学みたいなものがあり、中々他人の言葉を受け入れるのは難しい。兼城先生は腐っても(?)京都橘の顧問なのだから・・・といった気持ちは全くない。素直に耳を傾けそれをやってみる実行力を持っている(聞くだけの何処かの首相とは違って)くそ真面目か!の印象。

 

その観点から見返すと兼城先生になってから他の有力校との交流が増えた。精華女子とは毎年だし長崎や今年は鹿児島、上村学園には自分からアプローチしている。台湾遠征でもそう、これらは部員の向上の為という事になっているが、本当は先生自身が相手校の顧問の先生の話を聞いたり新しい練習方法を見つける手段にしているのではないだろうか。

 

顧問就任以降、多くの非難を浴びながらも数多くの変更にチャレンジしている。練習前の出欠、100マス計算、15分間の午睡、トレーナーの導入、座奏での白のブレザー変更、代名詞SINGの縮小版へ更にはパレードの2分割等々。サンクロレラやキュレルによる資金調達、秋には来年の入部希望者への相談会開催等数多くのチャレンジを始めている。無論失敗に終わったものも知らないだけであるはずだけれど。

 

音楽重視との観点からマーチングが軽視されるのではないかとの懸念も多かったみたいだ。しかしマーチングの経験は分からないが「M協のマーチング講習会へ参加した」と言っていたのでかなり勉強されたのだろう、少なくとも前顧問よりは積極的である。今年の台湾動画のリハーサル風景を見ても部員の中に入って声をかけ指導する様子が見られた。これらを見ると上級生と下級生の関係や顧問やコーチとの関係も「親しき中にも礼儀あり」を身に着けた「民主制」に近づいている様に思える。苦しい時には「皆で話し合う」ことを第一にしているというのだから。

 

部員やOGからの評価は「優しい先生です」、本人も「叱らなければいけないときは叱りますけど・・」

類推するに変更する場合には

「これからこうするぞ」

と言うタイプではなく

「こういう方法ってどう思う?」

という自主性重視のやり方なんだろうなと思う。

 

昨年甲子園を沸かした「新しい野球」の慶応高校野球部に近いものを感じる。古い体質からの脱皮。

 

停滞していた橘に必要なのは、新しいことを柔軟にそして貪欲に吸収する力そして実行力、これを平松先生は見極めて兼城先生を選んだのだろう。これが亡くなる少し前のことなので平松先生もただ笑っているだけではない凄い人だったみたい。平松先生は2018年には特別顧問に就任して兼城先生を全力でサポートしていたようだ。

 

去年の定期演奏会のDMや部長挨拶を聞いて「なんだ、この優等生!!」とショック(?)を受けたものだが、今年の部長や来年の部長たちの言葉を聞いても優等生だけれどちゃんと「自分の言葉」を話している。

 

「民主」兼城イズムが定着したようだ。

 

天才ではないけれど「偉大な凡人」であることは間違いないようだ。

10年後、20年後にはカリスマ顧問になっているのだろうか。