晴れ、ときどき自遊人 -3ページ目

晴れ、ときどき自遊人

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出会いは一度きりでも、心にはずっと在る。

いわきから磐越東線に乗車。通称「ゆうゆうあぶくまライン」と呼ばれるローカル線は、阿武隈高地の山間部を 「分け入って、分け入って」 郡山駅に到着する。乗車時間、約1時間半。これが、なんとも心地よい"ヒーリング列車”だった。



ゆうゆうあぶくまライン


がたんごとん、がたんごとんと、電車が奏でる穏やかで心地よい音色。車窓から眺めるは、青々とした美しい新緑の風景。開きかけた本を閉じ、ただただその素晴らしい「作品」に酔いしれた時間となった。

ゆうゆうあぶくまライン


郡山から更に電車を1本乗り継ぎ、2番目の目的地に到着。「あたたら山(現・安達太良山)」を望む二本松市。高村智恵子の故郷だ。


智恵子は東京に空がないといふ。
ほんとの空が見たいといふ。
……
あたたら山の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

あどけない話 (『智恵子抄』高村光太郎)より

さあ、「ほんとの空」に会いにいこう。


暖簾は出ていなかったが、店は開いていた。先客はおらず、カウンターの奥に腰をおろす。「お茶ですね」という大将の予測を裏切り、まずは「ビールを」。(こういう時の一杯は究極的に美味しい)

時間があまりないので(乗車予定の電車を逃すと2時間半も先になる)、早速握りをお願いした。旬のおすすめを。

栄寿司

(前列右から時計周りに、えんがわ、まぐろ、鱒の何か(珍味)、紫ウニ、煮はまぐり、アオヤギ、トリガイ、ホッキガイ。その他、ふぐ、マコガレイ、タイ、ヤリイカ)

期待通り、旨い! 全12貫で3000円、安い!

秀逸は「トリガイ」。柔らかすぎる。「これ食べたらもう東京では食べられないよ~」という大将の言葉に偽りし。常に脇役だったトリガイがこの日は堂々主役を演じていた。人生初、トリガイに魅了されたステージとなった。

また、鱒の何か(失念したが、珍味らしく漁師の間ではその食感から「ガム」と呼ばれるらしい)も、少し塩味が強かったが、なかなか興味深い一貫だった。

総合的に大満足。この道30年の大将が厳選した旬ネタに、熟練の握り。(小ぶりで酢のきつくないシャリも好みに合った)もちろん、見るも美しい江戸前鮨とは趣が違うが、これぞ「漁港の寿司」である。

他に客がいなかったので大将から色々な話を聞いた。沿岸漁業の再開には放射能の問題以外にも越えるべき課題あるらしい。それでも、いわきのめひかりが食べられなくなった元凶が原発であることに変わりはない。

ちなみに、件の『danchu』は“覆面”でやってきたという。客として入店し一通り食べ終わった後、徐に名刺を差し出し取材依頼をされたそうだ。(さすが信頼度No.1の雑誌だけある。この話を聞いて見直した)

時間も迫ってきたところで、「東北の美味しいものを食べ尽くしてきます」と宣言し、店を出た。夜は寿司ではなく一品料理を食べにくる地元の常連客が多いということだが、是非再訪したい。旅のスタート地点からいい出会いをした。

いわき駅まではとても歩ける距離ではないと大将が言うので近くのバス停に行くと、今度はタイミングよくバスがやってきた。(実際バスで40分くらいかかった)次は、「ゆうゆうあぶくまライン」に乗り、智恵子の言う「ほんとの空」を目指す。


栄寿司(えいずし)
福島県いわき市小名浜上町52
0246-92-4181
※事前予約(問合せ)した方がよい

栄寿司寿司 / いわき市その他)

昼総合点★★★☆☆ 3.8



朝6時。出発の朝、見上げるとぼんやり寝ぼけ顔の東京の空があった。初日は福島。今回は「いわきの寿司」と「ほんとの空」を選んだ。まずは、いわきを目指し、いざ。
 

寝ぼけ顔の東京の空

 

 


いわきは、かつて仕事で何度も訪れた地だ。「とにかく魚が旨い」訪れる度、その印象が積みあがった。

特に「めひかり」。市の魚に指定されている名産だ。ししゃもに似た形をしているが目がでかい。深海魚だという。そして、大変な美味。白身なのに上質の脂がたっぷりで、旨みが舌の上に広がる。鮮度が落ちやすく、東京では唐揚げや天ぷらでしか味わえないが、真骨頂はやっぱり「生」。初めてめひかりの握りを食べた時、あまりの美味しさに感動し、出会いに感謝した。

 


「たこまんま」と呼ばれる珍味・蛸の卵を初めて食べたのもこの地だった。その時は「んんんっ~」と唸り声をあげたのを覚えている。

驚愕的に濃厚。究極のプリン体。その夜、すっかりスイッチの入った酒呑み一向は、翌日に控える大事な仕事のことも忘れ、宴に興じること延々7時間。朝5時を迎えたところで小料理屋の優しい大将に「河岸(かし)に行くので…」と控えめに追い出され、しぶしぶ宿に戻った。(翌朝は全員寝坊・仕事にはかろうじて間に合ったが猛省した若き日の一コマ……)

いわきを最後に訪れてから5年になる。そして、震災から2年。今でも沿岸漁業は自粛が続いていると、出発前、報道で知った。めひかり漁も、である。大好きないわきの魚の現在、そして未来を知りたかった。

知人から小名浜に評判の寿司屋があると聞いた。「栄寿司」。ネットで調べると『danchu』でも紹介されたことのある有名店だったので、ここを訪れることに決めた。
 

都内を早朝に出発し、のんびり鈍行列車でとことこ4時間。いわきの一つ前、泉駅で下車した。座り疲れもあり、駅前で大きな伸びをしていると、目の前を「小名浜」と行先を示す路線バスが通り過ぎた。1時間に1本の貴重な足だった。

さて。地図で測ると約5キロ。歩けない距離ではない。初日の高揚感も手伝って観光がてら徒歩を選択。しかしこれが、なかなかの失敗だった。快晴の空のもと、夏を思わせる強い日差しが照りつける。そんな中10キロのリュックを背負って歩くものだから、ものの10分で汗だく。じりじり肌が焼けるのを感じながら、特に見るべきものもない国道をひたすら歩くこと1時間。12時前になんとか到着した。
 

小名浜

 

 


 し、しかし……暖簾が出ていない!

 

栄寿司

 

 

 

スタートから出ばなをくじかれた!?
長くなったので②へ。
 

 

5月のうららかな陽気に誘われてか、「旅の虫」がゴニョゴニョうごめき始めたので、休暇を取って旅に出た。

北へ。
春の東北をぐるり一周「“鉄子”、時々レンタカー」で巡った。
 
結論、素晴しい旅だった。かつてない程に。名酒名湯、絶景に美食。そして、温厚で優しい笑顔を持つ人々。満たされすぎて東京の生活に戻れるか、不安になった。

圧巻は、やはり大自然。「本物の自然」に衝撃を受け、今すぐにでも生き方を変えようと本気で考えた程、人生観、世界観に影響を受けた出会いだった。

 

最終日、岩手の龍泉洞で日記に残したメモがある。


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この世に本当に神が存在するとするならば
それは自然なのかもしれない
自然はその大いなる豊かさを

全ての小さな命に分け隔てなく与える
 

しかしいつの間にか人類だけが

与えられることが当たり前と思い上がり、

感謝することを忘れるようになった
そしてついには戦いをも挑み始めた
自らの力で豊を創造できると過信して


攻撃と破壊を続ける人類
その裏切りと愚弄に自然の怒りは爆発寸前だ
「人類の叡智」など鼻で笑われている
 

人類はその手の平に止まった小さな蚊にすぎない
本気で自然が怒ったら
ちっぽけな蚊は一瞬で叩きつぶされるだろう
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反省と自戒の念を込め思いが溢れ出たようで殴り書きだった。

旅を終え、新幹線で東京に戻る車窓、東北の自然は「いつでも帰っておいで」と、優しく微笑み手を振って見送ってくれた。帰ろう。そう遠くない将来に。この、にょきにょきビルの生い茂る東京を離れることを、私は選択する。


【松尾芭蕉も訪れた「山寺」(山形県)からの眺望】

山寺(立石寺)/山形
【本州最北端・下北半島「仏ヶ浦」の断崖・巨岩】
仏ヶ浦/青森

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 


世の中の習慣なんて、
どうせ人間のこしらえたものでしょう。

それにしばられて、
一生涯自分の心を偽って暮らすのはつまらないことです。

わたしの一生はわたしが決めればいいんですもの。
たった一度きりしかない生涯ですもの。

高村智恵子


「高村光太郎の妻」・高村智恵子、もとい、明治期の芸術家・高村智恵子の言葉である。『智恵子抄』で広く知られる彼女だが、光太郎との結婚前は女流画家として活躍。女性の社会進出など論外であった20世紀前半に、性に関係なく一個の人間として自立と自由を希求した。

その彼女の、決意表明ともとれる「強さ」が表れた言葉に、感銘を受けた。