私が入院していた病棟では、各科ごとに朝と夕方回診を行っていて、心臓血管外科では部長を筆頭に毎回数人の先生方がぞろぞろと回診に回っていた。
 S先生は、朝夕の回診の前か後に、必ず一人で様子を見にきてくれた。
 クールであまり愛想のない先生だが、私はS先生の顔を見るとすっかり安心するようになっていた。
 いつか見たドラマ「白い巨塔」で、岡田准一扮する財前教授が自身ががんの手術を終えた後で、東教授に「執刀してくれた先生に診てもらうというのは、こんなに安心するものなんですね。」とか言っていたが、まあまさにそういう気持ちだ。

 ある日、手術後の心臓エコーで、僅かに逆流が残っていることがわかった。手術をすれば逆流はびたっと収まるものだと思っていた私は、動揺した。
 夕方、部屋に来てくれたS先生にその事を話すと、「今まだ手術が終っていないので、明日になるかもしれないけどエコー見ておきます。」と。よく見ると、先生はまだ手術着を着ていた。こんな時間まで大変だなあ。まあ、話は明日でいいや。
 
 少し不安を抱えつつ、夜の消灯時間も過ぎて寝ようかと思った頃、S先生が来てくれて、「エコー見たけど、ステージⅠだったよ。」と教えてくれた。今手術終ったのかな。
 私が心配していると思って、手術が終った後わざわざエコーを見てくれたのだと思った。

 後で自分でも少し調べたら、弁膜症の形成術では残存逆流をまったくのゼロにするのはなかなか難しいようで、多少の逆流は残ってしまうことが多いようだ。
 後日、S先生がそのエコー画像を見せてくれた。私の場合は三尖弁も少し逆流が残っていて、今回手術はしなかったが大動脈弁にも実は漏れがあった。
 いずれも、問題ない程度だよ!よかったなあ!と、後で部長の先生にも言われたし、とりあえず今回はこれがベストの結果であったと信じよう。