昼間、僕は新宿で酢豚を食べていた。これは仕事で、なぜ酢豚を食べるのが

仕事か?と言われても、けっこう大事な仕事で、この酢豚自体の単価は

2000円くらいの物だが、この「酢豚を食べる」という仕事には

元手が15万円くらいかかっていた。

 

そこに父から電話がかかってきたのだ。

 

「オペラシティの支配人から電話がかかってきた」

 

常に妹の件は意外なところから始まる。

 

「オペラシティで錯乱しているらしい」

 

オペラシティで錯乱。その程度の情報で驚かないくらいの免疫ができて

いたが、だからといって、なんだってオペラシティで妹は錯乱するんだろう?

 

現在はオペラシティの医務室で保護されているらしい。

 

「今日は俺もおまえのおふくろも休みで家にいるから東京にいるのは

 お前だけだ。迎えに行ってほしい」

 

目の前で出てきたばかりの酢豚が湯気を立てている。

 

「無理だよ。」

「何してるんだ?」

 

仕事だ、と言えば良かったのに、視界に入った酢豚を思わず言語化してしまった。

 

「酢豚を食べている」

「お前、身内の大事と酢豚と、どっちが大事なんだ!?」

 

直接的に妹と酢豚と比較されては返す言葉もない。しかしこの酢豚はとても大事で

この酢豚のために何日も準備し、元手も15万円くらいかかっており、

ここで中断すると多くの人に迷惑がかかる。

 

全く父に理解してもらえない。

 

多くの人に迷惑がかかり、何日も準備し15万円かかったものが

酢豚だという事実は、目の前でこの酢豚に関わった人以外には

理解できないのであろう。

むしろ妹よりも酢豚を選んだ兄という酷いレッテルを貼られかけている。

 

仕方なく酢豚をあきらめ新宿を出る。

このときに居合わせたスタッフに協力を頼む。僕一人では

とても妹を止められないかもしれない。3人のスタッフが

引き受けてくれ、一緒に車でオペラシティに向かう。仕事のために

借りたワゴンカーだが妹を乗せるのにちょうど良いサイズだ。

 

結局酢豚は二日後に仕切り直すことになった。