症状や重さによるだろうが妹の入院直後、僕たち家族の面会はいつも
制限された。妹の母に対する依存度が大きいのと僕や父に対する敵意が
激しいからだろう。そのくせ利用できるときは僕だろうが父だろうが
利用する。そういう一面が妹にはある。
ある疑念が沸き、僕は病院に妹へ面会がなかったか?尋ねる。
「ありました」
電話越しの看護師が言う。なぜやすやすと面会を許すのか?
「家族の方の申し出などがない限り、
こちらとしては面会を拒否することはできません」
そちらで家族の面会を制限しておきながら、家族の申し出がなければ
他人の面会は許可するものなのか?
「面会に来た人の名前教えてもらえませんか?」
「ふくやまはるという方です」
偽名だ。妹は福山雅治のファンだ。入院直後、母が会えないまでも
CDを5枚差し入れた。病室に置いてあるはずだ。見れば分かるだろう。
そんな妹の面会者がふくやまはる。
若い女性で制服を着ていたという。
驚いたことに面会者は2人だった。
「その人の名前は?」
「たじまはるさんですね」
人を舐めた偽名だ。
福山雅治好きでインドかぶれの妹の面会者がフクヤマハルとタージマハル。
人から根掘り葉掘り聞き出してカルテを作ったくせにこの程度の
ウソにも気がつかないのか?フクヤマハルさんとタジマハルさんが
連れ立って面会に訪れ、閉鎖病棟を堂々とくぐり抜けている。
そんな似非ミュージシャンとカレー屋みたいな2人組に何の疑問も
抱かない病院サイドに少し呆れた。
しかもタジマハルは男性で、フクヤマハルに比べると年上で
40代くらいに見えたという。
正確にいうとフクヤマハルの面会はこの時が二度目で、
一度目は一人で訪れていた。
妹の交遊関係は元々それほど広くない。それを病気と妄執的な性格で
さらに狭くなっている。
僕の知っている誰かだとすれば、
制服を来た女性は自称妹の従姉妹の山崎かな子さんで
40代にみえた(実際は36歳だが)男性は妹の腐れ縁のサイトウ君だ。
予想ではなく僕はそう確信していた。