午後から島田くんの住む駒沢に向かおうと午前中のうちにできうる限りの仕事を
済ます。実際、統合失調症や双極性感情障害の人と向き合うにはかなりの時間が
必要で、一度会ってしまうとだいたいその日は潰れてしまうことを覚悟しなければ
ならないことが多い。
 
すると電話が鳴る。電話がなるともはや島田くんの関係か?とも思ってしまう。
しかし違った。いや結果的には島田くん関係だ。
 
電話の主は僕の仕事の盟友で島田くんも何度か世話になったD社の倉持社長だ。
 
「昨日、突然、島田くんから電話がありまして、ウチの会社に来ました。」
 
島田くんは僕の会社を辞めた後、フリーで倉持社長の会社の手伝いをしていることが
あった。
 
実は島田くんは僕の会社を辞めるとき、ライターになりたいと言って退社した手前、
厳密には僕の業種ではないもののサテライトのように僕の周囲の会社を
ウロウロし、それがどうもやましいのか、そして僕もそれを知ってはいるものの、
あえてツッコミづらく、お互いがそれに触れぬまま、ライターにもならず
そのサテライトは徐々に円周を広げていったため、
いつの間にか、島田くんが何を今やっているのか?よく分からなくなっていた。
 
「いや、私も今の島田とはあまり関わりがないんですよ」
 
倉持社長は言う。
 
「それが…『松方弘樹さんが亡くなって倉持さんが悲しんでいると思って』から
 話が始まりまして」
 
大阪城を攻めるならせめてその外堀から埋めてもらいたいものだが、
島田くんはなぜか名古屋城を攻め始めた。倉持社長が仁義なきシリーズが好きだった
なんて聞いたことがない。
 
「それからどんどん島田が今、やっている仕事の話が始まって、
 まず、それが私にどんな関係があるのかが分からないまま、話聞いていても
 どんどん知らない名前がでてきちゃって、やたらその人たちをほめちぎる
 わけですよ。」
 
話をしている人間すらよくわかっていない話を僕が聞いてもイマイチ要領がえない。
 
「で、返事に困っていると『今から行きます!』って突然来たんです。」
 
倉持社長には申し訳ないがつくづく自分じゃなくて良かったと思う。
夜、いきなり具合が悪い人に突然訪れてほしくない。
 
どうやら、島田くんは大きな仕事を抱えているらしく、それを
自慢げに語って帰った(実際は島田くんの中では違ったのだが)と
倉持社長は捉えた。そう捉えたなら、なおさら気味が悪い。
 
半年ぶりに会った奴が松方弘樹を皮切りに突然訪れ、
倉持社長が全く関係ない仕事の話をして帰る。
 
気味が悪くなった倉持社長は僕に連絡を取ってきた。
 
ただ僕の会社から始まり島田サテライトは徐々に円周を広げて行ったので
倉持社長も僕も自分の人脈をたどっていけば数人先には、今の仕事先に
たどりつけるかもしれない。
倉持社長はこれまでの島田くんの病気を良く知らないので
僕は妹を例に出し、もしかしたらそんな病気かもしれないと曖昧な説明をした。
 
「少し様子を見ましょう!」
 
何も解決しない、しかしそうとしか言いようのない口約束して一度電話を切る。
倉持社長は最後に
 
「怖いのは、島田が『こういう大きな仕事には秘密が多く陰謀が渦巻いている』と
 言っていたことです」
 
陰謀ね。かって妹も一人で陰謀に巻き込まれていたな。