二夜連続で倉持社長を訪れた島田くんの用件を倉持社長は

さっぱり分からなかった、という。

 

昨晩と同じことを繰り返すばかりだからだ。

倉持社長との思い出話をし、倉持社長が全く知らない今の島田くんの

人間関係をただただ話す島田くんを倉持社長は怖々、眺めるしかなかった。

 

一方で倉持社長は人脈を使い、島田くんの今、を調べ始めていた。

元はと言えば、僕の会社を辞めたのち、島田くんは倉持社長の紹介で

アルバイトを始め、そこから派生し現在コンサートなどの舞台監督の

助手をしている。

 

調べれば調べるほど状況は芳しくなかった。じわじわと

島田くんの出入りする会社などに不審人物のような印象が

広がり始めていた。たいてい不審人物とは身元が不詳で

影のように謎に包まれているイメージがあるが、

この不審人物は、身元が明らかで、つい先月まではフリーで

舞台監督補として様々な会社に出入りする輪郭くっきり島田くんだ。

 

それがここ数日で不審人物化している。

 

島田くんの将来を考えれば、なるべく被害を最小限にとどめたい。

彼の症状の重さや再発した原因などにもよるが、

島田くんが好転し今の仕事を続けるのであれば、

雇い主に島田くんの現状を知られたくはない。

もちろんこれは島田くんサイドに立った身勝手ではあるが。

なんだかんだ、鬱や精神疾患に理解が広がってきたとはいえ、

目の前に突然スイッチが入って妙な動きをする人を誰も

できれば雇いたくない、のが本心だろう。

 

しかし、妹も島田くんもスイッチが入ってしまうと

そんなこっちの思いは無視だ。

 

去年、島田くんは自分自身で精神疾患の足音を感じ、

(病識があるのは良いことで大人しく、すぐクリニックに

 行けばいいのだが)

30人規模の知り合いを中心に

「島田くんリスクヘッジ連絡網」を作った。

 

自分に何かあったときにみんなで連絡を取り合い、

支えて欲しいのだという。

 

要らない。    必要ない。

 

国家元首をのぞけば、どんな大物だってそんなにSPが

いる人は滅多にいない。

僕に言わせればそれは「リスクヘッジ連絡網」ではなく

「不審人物認知拡散網」だ。

去年は僕が封印した。でも今年はどうだろう?

 

この手の僕の予想は経験に基づくのでだいたい当たる。

嫌な方角に。